約3兆6000億円を調達する見込みだったが…
市場関係者や個人投資家を沸かせた史上最大の株式上場が、上場予定日の2日前に、一瞬にして吹き飛んだ。その銘柄は中国電子商取引(EC)最大手、アリババグループ傘下の金融会社、アント・グループだった。
11月5日に香港と上海の両市場で新規株式公開(IPO)を予定し、350億ドル(約3兆6000億円)を調達する見込みだった。それが3日、上海証券取引所が突然、上場中止とし、アントは香港取引所への上場も延期すると発表した。
例によって上場延期の明確な理由は示されていないものの、個人投資家から3兆ドルを超える応募が殺到したとされるIPOに、習近平政権による強い圧力がかかったとみるのは想像に難くない。
アントのIPOが「ノー」を突き付けられた発端となったとされるのは、アントの経営権を実質的に握るアリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏に対する金融当局による聴取にあった。北京に本部を置く証券監督管理委員会(証監会)は2日、馬氏とアント幹部を呼び出した。
馬氏に対する当局による一種の制裁という見方
米ブルームバーグ通信によれば、その場でアントのIPOについては直接の言及はなかったものの、当局者は馬氏らにこれまでにアントが享受してきた緩い監督と最低限の資本要件の日々は終わったと告げたとされる。
事実、証監会はその日の夜、馬氏とアント幹部を聴取したことを突如、発表した。金融当局はほぼ同じタイミングで、アントも手掛けるインターネット小口金融に対する新たな規制案も公表した。これを受けて、上海証券取引所は情報開示の要件を満たしていない可能性があるとして、アントの上場延期を3日に発表した。
この瞬間、昨年上場したサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコの調達額を上回ると見込まれた史上最大の上場は消え去った。
しかし、ここ数カ月入念に準備が進められてきたアントのIPOに上場直前になって待ったがかかった理由にはさまざまな憶測を呼んでいる。
その最たるものは馬氏に対する当局による一種の制裁という見方だ。その根拠として挙がるのは、習近平政権への批判とも受け取られかねない馬氏の発言にあった。