中国ではデジタル人民元の実用化実験が進行中

紙幣ではなくデジタルな形で保有できる通貨をデジタル通貨と呼ぶが、電子マネーや仮想通貨などがこれに含まれる。さらに近年は、中央銀行が発行するCBDC(Central Bank Digital Currency)と呼ばれるデジタル通貨の開発競争が激しさを増しているが、その代表格が中国のデジタル人民元だ。

中国ではすでに実用化に向けた実験が進んでおり、深圳、蘇州、雄安の3都市でテスト運用のための口座(デジタルウォレット)が企業と法人向けに開設された模様である。その他にもカンボジア(バコン)やバハマ(サンドダラー)、東カリブ(デジタル東カリブドル)などが、実証実験の段階に入っている。

世界の通貨レート
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日銀や米連銀(FRB)、そして欧州中銀(ECB)といった主要中銀もデジタル通貨の調査研究に着手する方針を相次いで示している。そのうちECBは10月2日付のリポート(Report on a digital euro)で、2021年半ばまでに欧州連合(EU)版CBDC(デジタルユーロ)の発行に関する調査検討を本格化させるか結論を下すと表明した。

富裕層を中心に資産を海外逃避させる動きがやまない

とはいえ、リポートでのECBの言い回しは「慎重」である。理由は簡単で、中国にはデジタル人民元の発行を急ぐ理由があるわけだが、ECBにはそれがないからに尽きる。ECBのスタンスは日銀やFRBにも通じるところがあるが、ここでは中国と欧州の比較から、開発が進むCBDCに関して簡単な整理を行ってみたい。

中国がデジタル人民元の発行を急ぐ目下の理由は、資本流出対策にある。この40年ほどで中国の経済は著しく発展、一人当たり所得も1万ドルを優に超え、世界第2位の経済大国にのし上がった。経済的な実績が十二分に果たされたこととは裏腹に、中国の人々の自国通貨、人民元に対する信頼は非常に弱いことで知られる。

中国ではいわゆる富裕層を中心に、香港をはじめとして世界のさまざまな都市に自分の資産を逃避させる動きがやまないが、それには違法性を伴うことも多い。それに海外で資産を購入するためには、人民元を売って外貨(主にドル)を買う必要があり、それが強い通貨安圧力になる。こうした圧力に対して、中国人民銀は為替介入を通じて対抗してきた。