アフリカでのデジタル人民元の流通は実現可能性が高い

人民元をデジタル化できれば、当局は決済を厳格にモニタリングすることができる。違法性を伴う取引に関して懲罰的な措置を迅速にとることも可能だ。取引が当局に把握されていることが分かれば、違法性を伴う海外への資産逃避も不可能となる。つまるところ、資本流出が減ることが期待できるである。

資本流出が減れば通貨の安定につながり、悲願である国際通貨への道も開けてくる。それにデジタル人民元の発行で、自らの影響力が強い地域、例えばアフリカでの人民元決済を拡大させることができるかもしれない。スマホ決済の普及率が高く、親中的な国も多いアフリカでのデジタル人民元の流通は実現可能性が高い話だ。

他方でECBの場合、資本逃避を警戒する必要がまずない。それに財政が統合されていないという看過できない性質を持つものの、ユーロがドルに次ぐ第二の国際通貨としての地位を築いている。2010年代前半のユーロ危機の際、確かに国際通貨としての信頼感は揺らいだが、一方で世界の人々はユーロという通貨を今に至るまで使い続けている。

デジタル通貨にはサイバーテロなどの新たなリスクがある

そもそも中国の富裕層が資産逃避に走る背景には、政府に対する不信感がある。いつ何時、政府が自分たちの資産を没収するかもしれないことへの恐怖だ。反面で、欧州の人々にはそうした政府に対する不信感はない。ユーロに問題がないわけではないが、少なくともEU諸国の政府が人々の資産を没収するようなことなど考えてはいない。

上空からみた上海の夜景
写真=iStock.com/Easyturn
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それに、デジタル通貨の発行に伴いさまざまな問題が生じる可能性もある。具体的には、デジタル通貨を発行したことで金融政策の波及経路にどのような変化が生じるか、金融システムの安定性を脅かさないか、などの懸念である。責任ある中銀としては、こうした論点を軽んじてまでデジタル通貨の発行を急ぐことなどできないわけだ。

たしかに現金が少なくなれば偽札が出回る機会も減るが、代わりにハッキングなどのサイバーテロやシステムダウンという新たなリスクが生まれることになる。特にシステムがダウンした場合、日々の決済が完全にストップするため、経済活動に多大な損害を与える。ECBのような主要中銀がCBDCの発行に慎重となるに越したことはない。

なおEUでは、ユーロに加盟していないスウェーデン中銀が独自にデジタル通貨(eクローナ)の発行を急いでいる。要するにECBは、中国やスウェーデンの実験を通じデジタル通貨に対するスタンスを決めれば良いと考えているのだろう。こうした態度は、国際金融システムの中枢にある主要中銀としては当然といえる。