経営者は、社員が意欲的になれる状況をつくる

ところが多くの企業の場合、四半期や1年などの縛りをつけて、収益を上げるために従業員にいろいろなことをやらせます。

成長の度合いは一人ひとり違うので、人によっては5年かかる場合があります。しかし、そういう場合も、無理にやらせようとします。無理にやらされた人ははたして幸せでしょうか。

そもそも、会社が目標を設定して、「ここに向かってがんばれ!」とお尻を叩くよりも、社員が意欲的になれる状況をつくってあげることが、経営者として大切だと考えています。勉強でも「やれ」といわれるとやる気が失せますが、逆に「やれ」といわれないと、しばらくすると不安になり、自らやり始めるものです。

ですから私は、会社としての数値目標は設定しません。ただ実際には、個人や支店で数値目標は設定しています。会社が指示してやらせるのではなく、自分たちでつくっているわけです。「指示されて行うこと」と、「自分で考え実行すること」では、やりがいが大きく異なります。

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自分たちで考え、実行していくことが、“楽しく働けること”や“成長を実感すること”につながり、幸せな人生になっていくのではないでしょうか。

会社の目標と個人の目標は共存する

私自身、具体的に目標を立てることは苦手で、実際立てたことはありません。ただ、東京の上場企業で働いていた若い頃は、数値目標を設定し、それをクリアしようとしていました。会社にやらされていたわけですが、当時はそういうものだと思っていましたね。

しかし数年経つと、「こうした生き方は違うのでは」と違和感が生じるようになり、そのタイミングで母の病気がわかったので、故郷に戻りました。

当時社長をしていた塚越寛(現・最高顧問)の伊那食品工業にいきなり管理職として入社したわけですが、前職場とあまりにも違うことに驚きました。まず、書類がない。そして売上目標もない。「もっとちゃんと管理しなくちゃダメだ」と、その頃は思いましたね。

それでも、父の代から「業績や利益にとらわれず、従業員の幸せを考える」といわれ続けていたので、私もそういう思考になりました。ただ、そう頭ではわかっていたつもりでしたが、じつは心の底から理解できてはいなかったのです。

そんなとき、ある講演会で、父の考え方について鬼澤慎人氏(株式会社ヤマオコーポレーション 代表取締役)が解説してくれたことがありました。当社をよく理解してくださっている外部講師の方の話を聴き、そこで初めて「これが進むべき正しい方向だ」と腹落ちしたことは、鮮明に覚えています。