私は、会社の目標と個人の目標は“同じもの”だと考えています。会社にいる時間も、自宅にいる時間も自分の人生の時間であり、切り離して考えることはできないからです。
会社でも家庭でも楽しく幸せに生活する。そういう人が集まると、楽しい会社になっていきます。もちろん、地域あっての会社なのですから、地域との共存共栄は当たり前だと思っています。
判断基準は“社員が幸せかどうか”
ビジネスをする上で困難なことにぶつかったら、数字で考えるのではなく、「従業員や周囲の人たちにとって、それはよいことか悪いことか」で判断しています。
企業が存続するためには売上も大事ですが、それだけではありません。売上や収益などの数字を上げることはひとつの通過点であり、お金は人を幸せにするひとつの道具に過ぎません。
そもそも企業は終わりがないのが大前提です。目標を設定してクリアしたらそれでいいかというとまた違います。
売上を第一目標に掲げなくても、社員が幸せそうに働いていれば、業績は自然とついてくる――。実際、当社ではその通りになっています。日常生活で「幸せ」を感じることが何より大切だと思います。幸いにも当社には、こうした考えが脈々と受け継がれてきました。それを引き継げるのは、とても幸せです。
目標といえるのかはわかりませんが、「いい会社をつくりましょう」という理念にしたがって、今のやり方で恒久的に会社を続けていく。それが、私の目指すところです。
著者・石井大貴の取材後記
本社のある長野県伊那市の「かんてんぱぱガーデン」に一歩足を踏み入れた瞬間、その整然と美しく明るい光景から伊那食品工業がどれだけ人々と地域に愛される、優しい会社なのかが伝わってきます。
最高顧問から塚越英弘社長に継承された社員の幸せを目指す「年輪経営」は、私たちがいつも忘れてはいけない、本質的な生きる目的や価値を照らし出していると強く感じました。
伊那食品工業株式会社 代表取締役社長。日本大学農獣医学部卒業後、CKD株式会社に入社。その後1997年に伊那食品工業に入社し、購買部長や専務を歴任、2016年から代表取締役副社長。2019年2月に代表取締役社長に就任、以降現職。