資産10億米ドル以上(約1000億円)の人は、世界中に2189人しかいない。ただし、その資産総額は全人類約6割の財産よりも多い。しかも2020年4月~7月の間に、その資産は27.5%増加した。なぜ貧富の差が拡がっているのか。法政大学の水野和夫教授と衆議院議員の古川元久氏の対談をお届けしよう——。

※本稿は、水野和夫・古川元久『正義の政治経済学』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

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資本は暴走するものだから、ブレーキが必要だ

【水野】人間が本質的に〈進歩〉していないと感じるのは、昨今の資本の暴走について考える時に、より強く実感できます。

古来、多くの人々が警鐘を鳴らしてきましたよね。「資本は暴走するものだから、どこかでブレーキをかけなくてはいけない」と。

アダム・スミスしかり、マルクスしかり、ケインズしかり、ディドロやトマス・アクィナスしかり。本来は人を豊かにするはずの〈資本〉が、時に貧富の差を生み、暴走してしまう。それを防ぐための方法を多くの人が考えてきました。

ところが「新自由主義経済」が主流になった1970年あたりからでしょうか。先人たちの警告が忘れ去られ、再び資本の暴走が始まってしまいました。「市場が倫理だ」「市場で決める価値が倫理である」という説がまかり通るようになってしまった。

【古川】行き過ぎた〈自由〉は、苛烈な競争を生み、そこから脱落する人々を、大勢出してしまいましたね。

世界の最富裕層の財産総額は、最貧困層の財産より多い

【水野】現在、世界の最富裕層(ビリオネア)は、たったの2189人です。

しかもその総資産額は、今夏、過去最高の10兆2000億ドル(約1081兆2300億円)に達したという。2020年の4月から7月の間で27.5%増えているんですよ。コロナ禍のせいで、「絶好調」だというわけです。彼らのこの財産総額は、最貧困層46億人の財産より多い。

46億人ってどれくらいの規模かというと、全人類の約6割ですよ。地球に生きる6割の人々のなけなしの全財産をかきあつめても、2000人ちょっとの財産に負けるなんて世界、あまりにいびつではありませんか。

ローマ帝国のネロの時代には、北アフリカの領土はたった6人の地主が支配していたそうです。あの広大な大陸を6人が支配していたとは驚きですが、そんな時代に呆れる資格が今の私たちにあるのかどうかといえば、分かりません。西暦64年に起きた「ローマ大火」はネロの放火説がうわさされ、ネロは「燃えろ、燃えろ」と喜んだといわれていますが、そんな狂気は現代にも受け継がれているのです。

【古川】現代の富の不均衡をもたらしたのは、〈新自由主義〉と〈自由貿易論〉、そして〈グローバリゼーション〉の台頭だと、水野さんは以前から指摘されていますね。

【水野】ええ。いずれも「自由」という言葉を使っているので響きがいいんですよね。でも今、それらがもたらした悪影響は、無視できない段階まで行き着いています。