トンネル内は列車と壁との距離が近く、逃げ場がない。顔の高さをめがけて、屎尿が飛んでくる。直撃することも少なくない。

「今のはきれいな女性だったぞ!」

先輩が叫ぶ。

「そんなの、慰めにもなりませんよ。一日の作業が終わると、事務所の風呂に入って、服を全部着替えて帰宅しました」

保守・点検作業員たちの苦労とがまんの歴史

駅の排泄の処理も大変な作業だった。

「停車中のトイレの使用はご遠慮ください」

列車のトイレの入り口に告知されている。しかし、便意で切羽詰まっている乗客はがまんなどしてくれない。

神舘和典、西川清史『うんちの行方』(新潮新書)

「ホームから列車が去ると、線路に排泄物がそのまま残っています。わきには使用済みのトイレットペーパーがきちんと添えられている。大船、小田原、熱海のような停車時間が長い駅にはしょっちゅう残っていました。かつての線路には砂利が敷かれていたので、後始末は若い職員が土をかけていました。あとは雨風まかせです。どうせまたすぐに汚れますから。その後コンクリート仕様になって、排泄物をゴムホースで水洗いできるようになりました」

あまりに劣悪な労働環境のため、労働組合が訴訟を起こしたこともある(和解が成立している)。民営化でJRになってからは、トイレ関係の業務はアウトソーシングしている。

「国鉄が民営化されてJRになってからは、汚れ仕事は外注されるようになりました。外注する分、線路の保全にはコストがかかっています」

Iさんの話も実にリアルだった。

今、乗車中にもよおすと、私たちは躊躇なくトイレに駆け込む、しかし、その環境にいたるには、たくさんの人の苦労とがまんの歴史があったのだ。

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