突破力ある若手医師が少なくなった…
「突破力のある若手医師がいなくなった──」
近年、そんなもどかしさを強く感じています。自分たちの手で新しい医療をつくっていく、よりよい医療を実現するために古い制度を変えていく……。そうした「現状を変えてやるんだ」という思いを持った若手が少なくなっているのです。
背景には、さまざまな要因が考えられますが、ひとつには、医学部受験を取り巻く、世の中の変化に一因があると感じています。1955年(昭和30年)生まれの私はもちろん、1970年(昭和45年)生まれくらいの世代までは、医師になるために小学校の頃から学習塾に通い、受験勉強をし、中高一貫校への進学を目指すという風潮はそう多くはありませんでした。日本全体がまだ貧しかったからです。
そうした状況下で育った人たちは、必死に勉強して医師になり、「親や世話になった人たちや世の中に恩返ししたい」といった思いがありました。「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」という八徳の精神です。
しかしその後、日本のGDP(国内総生産)が上がっていき、日本が裕福な国になるにしたがって、社会も人々も大きくさま変わりします。医師になろうとする人たちも、変わっていったのではないかと私は感じています。
豊かな時代の「志ある医師」の姿を問う
私が医学部を受験する前年の1973年(昭和48年)からは、「一県一医大構想」によって医学部の新設ラッシュが始まり、1979年(昭和54年)には琉球大学に医学部が設置されて51校の国公立大学医学部(防衛医科大学校を含む)が整備されました。
さらに私立の医科大学も新設され、私立大学医学部は29校(現在は31校)になり、医学部受験が過熱します。多少の経済格差はあっても、医学部に進む学生は、基本的にそれほど貧しい家の人たちではなくなったのです。
以前なら、経済的な問題で国公立大を目指していた学生も私立の医学部へ進むようになりました。そうした豊かな環境は、医師になる人たちの気持ちに少なからず変化をもたらしたような気がしてならないのです。
私の経験ですが、「努力して患者さんのために貢献して社会に恩返ししたい」という志を持った医師を減らしてしまったように感じるのです。