一県一医大政策を見直し、患者貢献を徹底的に教え込む

やがて、高度成長社会から低成長社会へ時代も変化し、医療ニーズも、成人病から生活習慣病、それに続く老年病へと領域が広がってきました。

また、患者さんの医療知識レベルの向上や、治療における低侵襲ていしんしゅう化への志向が進み、エビデンス(根拠)をベースにした医療と、治療におけるガイドライン策定など、厳格なルールと手順が求められるようになってきました。

そうした数多くの要因から考えると、そろそろ一県一医大構想による医師育成を見直しして、知識と経験を身につける医師教育に加えて、地域、組織、患者さんへの貢献を徹底的に教え込むことが求められていると感じています。それを卒業後もモニターし続けるような医師育成制度に切り替えてもよいように思います。

なぜならば、日本の医師育成には莫大な公費が投入されているからです。国公立大学だけでなく、私大にも公費は注ぎ込まれていますが、その原資はみなさんが担っている税金だからです。

医学生のグループ
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「医学生ひとりに1億円強の教育費」という現実

私立大学の場合、6年間の医学教育費は学生ひとりあたり約1億1000万円かかっています。6年間の学費が約2000万円の大学では、9000万円が公費でまかなわれている計算になります。国公立大学の場合は授業料が6年間で約320万~385万円と低額な分、さらに多くの公費が使われています。医師は国民の税金に支えられて育成されているのです。

こうしたことを考えると、医師は「患者さんのため、世の中のために労を惜しまず働いて恩返しをする」という意識を持つのは当然で、優れた実力であったから医師になれたということとは別の問題になるわけです。

私自身は3年の受験浪人生活を送ったので、周囲の支えを人一倍感じてきましたから、ずっとそういう気持ちで患者さんの命に向き合ってきました。そのおかげでさまざまなものを託され、自分を成長させてくれたと思える出会いや経験があったことで、一人前の医師になれたと思っています。

だからこそ、若手医師たちには、権利や自己主張をする前に、患者貢献という私と同じような思いやビジョンを持って、邁進まいしんしてほしいのです。