世界を肯定できるか

——先ほど、「自己」だけでなく「世界」も肯定できないと自己肯定感は得られないという話がありましたが、この困難に満ちた世界をどうすれば肯定できるのですか。

私の新刊のタイトルは『世界は善に満ちている』です。このタイトルを見ると、この世界に満ちている「悪」や「悲惨」、人生と不可分とも言える「苦しみ」「悲しみ」「虚しさ」、そうしたものに目をつぶった脳天気なタイトルだと反発する人もいるでしょう。

しかし、ネガティブな感情の根源にも「愛」があると説明したように、この世にさまざまな「悪」が満ち溢れているように見えても、そこには必ずそれに先立つ「善」があります。「善」を損なうものが「悪」なのですから、言い換えれば「悪」は「善」なしでは存在できないのです。

——たしかに理屈の上ではそうなるかもしれませんが、とても「世界は善に満ちている」とは思えません。

そういう方にこそ、ぜひ「肯定の哲学」を学ぶことをお勧めしたいと考えています。

山本 芳久『世界は善に満ちている:トマス・アクィナス哲学講義』(新潮選書)

たとえば、最初は退屈にしか思えなかったクラシック音楽でも、何度も聴いているうちに耳が肥えてきて、その豊かな世界を楽しめるようになります。最初はまずい飲み物でしかなかったワインも、何度も飲んでいるうちに舌が肥えてきて、ソムリエのようにその素晴らしい風味を味わえるようになります。

それと同じように、この世界の素晴らしさというものも、外界からの刺激を受けて生じる11種類の感情の揺れ動きを通じて、この世界に存在するさまざまな事物や人物、出来事を深く味わうことによって、徐々にわかってくるものだと思います。

トマスの「感情論」は、世界の「善」を存分に味わえるようになるためのマニュアルとして、言い換えれば「人生のソムリエ」になるための教科書として読んでみることのできる、極めて実践的なテキストなのです。

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