——でも、「怒り」や「憎しみ」をありのままに受け止めても、ますます苦しくなるだけです。
そもそも、なぜ上司に対する「怒り」や「憎しみ」という感情が浮かんでくるのか考えてみましょう。たとえば、あなたの大事な取引先をぞんざいに扱うからかもしれませんし、あるいはあなた自身の気持ちをないがしろにするような言動をするからかもしれません。すると、「怒り」や「憎しみ」という感情の根源には、「取引先への愛」「自分への愛」というポジティブな感情があるということになります。
「怒り」や「憎しみ」という感情を、ただネガティブなものとして受け止めるのではなく、それらの感情の根源にある「愛」の存在を確認し、それを大切に育むことが重要です。その「愛」を足場にして、はじめて現実世界に立ち向かう勇気や自己肯定感を得られるのです。
4つの「徳」
——「怒り」や「絶望」などネガティブな感情にも、人間を肯定的な方向へ向かわせる力があるというのは驚きです。
もちろん、「怒り」にわれを忘れて上司に暴力を振るってしまったり、「絶望」が強すぎて鬱状態になってしまったりしたら、肯定的なものとは言えません。あくまでも「しかるべき程度」で感情を抱くことが大切です。
——自然に浮かんでくる感情を「しかるべき程度」にコントロールすることなどできないのでは?
もちろん、思いどおりにはなりません。ただ、ここで注意しなければならないのは、ゼロか百かの極端な思考に陥らないことです。「完全に思いどおりになる」と「全く思いどおりにならない」という両極のあいだには、その中間的な状態が何段階もあります。
思いどおりにはならない感情の動きが極端なものにならないように、ある程度適切にコントロールしていく力を人間は身につけていくことができるとトマスは考えているのです。
——どうすればそのような力が身につくのですか?
それは「徳」を身につけることです。トマスは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を参照しながら、4つの枢要徳について論じています(図表2参照)。