新たな裁判手続きで投稿者特定の時間やコストを大幅に軽減
さらに政府は、12月下旬に 、これまで投稿者特定のネックとなっていた煩雑な裁判手続きを大幅に簡素化するため、裁判所が投稿者の情報開示の可否を判断できる新たな手続きの創設を決めた。
現行制度では、"犯人"を特定するためには、まずツイッターやフェイスブックのネット運営事業者に発信者の情報開示請求の訴訟を起こす。ところが、住所や氏名まで掌握しているケースはほとんどなく、入手できるのは通信日時やIPアドレスのような限られた情報にとどまる。このため、ネット運営事業者から得た情報をもとに、あらためてNTTドコモなどのネット接続事業者(プロバイダー)に情報開示請求の訴訟を起こす。そして、裁判所が認めれば、ようやく氏名や住所が明らかになり、発信者を特定できる。
そこに行き着くまでには1年余の時間と多額な弁護士費用がかかるのが通例で、訴訟相手が海外の事業者なら、時間も費用もさらに膨らむ。
2度の裁判で発信者を特定し、やっと損害賠償請求など3度目の裁判となるが、賠償額は少額にとどまることが多く、精神的苦痛を負った被害者の怒りや労力にとても見合うものではない。
そこで、新たに導入することになったのが、被害者の申し立てに対し、裁判を経ずに、裁判所の判断で、事業者に投稿者情報を開示するよう命じることができる「非訟手続」という仕組み。これにより、被害者は2度の訴訟が1度の手続きで済み、投稿者特定までの時間やコストが大幅に軽減されることになる。総務省は開会中の通常国会で、ネットの違法・有害情報に対応する「プロバイダ責任制限法」の改正を図る構えだ。
法務省も、現行の刑法が名誉毀損罪も侮辱罪もどちらもSNSによる誹謗中傷を想定していないため、刑事罰の中ではもっとも軽い侮辱罪の厳罰化や公訴時効(1年)延長の検討を始めた。
また、警察庁は、4月からスタートする第4次犯罪被害者等基本計画に、初めて「ネット中傷」対策を盛り込んだ。
自治体も「ネットパトロール」を強化
全国の自治体も、「コロナ中傷」から感染者や医療従事者を守るため、さまざまな取り組みを進めている。
東京都は2020年4月、「不当な差別的取扱いをしてはならない」という一文を盛り込んだコロナ中傷対策の条例を成立させた。その後、全国的な感染の広がりとともに、すでに20以上の自治体が同様の条例を制定している。
市長が被害に遭った白石市議会も12月、不当な差別や誹謗中傷から人権を守る条例を可決。市の責務として、患者からの相談に応じ、必要な情報提供や助言などの支援を行うことを定めた。
いずれも理念条例で罰則こそないが、抑止効果は上がりそうだ。
誹謗中傷の書き込みをチェックする「ネットパトロール」を実施する自治体も目立つ。
都道府県レベルで最後まで「感染者ゼロ」が続いた岩手県では、最初の感染者に中傷が集中したため、ネット上の投稿を丹念にチェック。「問題あり」と判断した書き込みは画像で保存し、被害者が名誉毀損で提訴する際の証拠として活用できるようにした。