中国発の動画アプリTikTokを警戒する国が増えている。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「TikTokをきっかけとする暴力事件や未成年の死亡事故などが起きており、制限されるだけの理由はある。運営会社が危険な動画を放置し続けるのであれば、こうした動きは加速する一方だろう」という――。
iPhone 7の画面に、TikTokをはじめとした各種SNSアイコンが並んでいる
写真=iStock.com/Wachiwit
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アルバニア首相「近所の悪党」

世界中でTikTokに対する禁止、制限措置が進んでいる。アメリカで今年1月、TikTok禁止法が施行され、1日だけだが利用できなくなったことは記憶に新しい。トランプ氏による大統領令によって75日間の猶予を与えられたが、4月には再び禁止となる見込みだ。

オーストラリアでは24年11月、16歳未満のSNS利用を禁止する世界初の法案が可決された。TikTokのほかX(旧Twitter)やInstagramなどが対象で、法案が成立した1年後に施行されるという。

南東ヨーロッパのバルカン半島に位置するアルバニアでは2024年11月、14歳の男子学生がSNSで言い合いになり、同級生に刺殺される事件が起きた。

事件後、同級生がSnapchatで犯行時の写真を共有し、同国では全国的な抗議行動に発展。一部の青少年はTikTokに「殺人を支持する」という内容の動画を投稿していた。

同国のラマ首相は24年12月、2025年からTikTokを全面的に禁止すると表明。「TikTokが若者の間で暴力を助長している」「TikTokは近所の悪党であり、この悪党を近所から1年間追い出すつもりだ」と、禁止の理由を語っている。

TikTokで「過激化」するメカニズム

TikTokで起きたと見られる暴力事件は、それだけではない。25年2月、オーストリア南部の路上でシリア国籍の男が通行人をナイフで次々に襲い、14歳の少年を殺害、そのほか5人が重軽傷を負う事件が起きた。

難民申請中の男はTikTokでイスラム教に関する動画を見始め、急速に過激化し、犯行に及んだと見られている。男は過激化組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓っており、「(犯行中に)警察に撃たれることを望んでいた」とも供述している。

TikTokは、AIでユーザーが好みそうな動画をレコメンドするサービスだ。デマを好む人にはデマを、陰謀論を好む人には陰謀論を多く表示させることで、いわゆる「エコーチェンバー現象」が働き、ユーザーはそれだけが真実という思いを強くすることになる。

オーストリアの事件の場合も、イスラム教に関する過激な動画を見続けることで、行動が過激化した可能性が高い。アルバニアの事件も同様に、暴力的なコンテンツを見続けることで行動が過激化し、事件に発展した可能性は否定できない。