偶然見つかった2歳の時に病死した母親の手紙に支えられた

ゆっくり療養できる状況ではないながらも、なるべく休養をとるよう努めていたそんなとき、父親の小さな金庫から、藤原さんが2歳の時に亡くなった母親の手紙が見つかる。

手紙は、母親のがん闘病初期と末期のものがあり、いずれも父親宛て。初期は父親に苦労をかけることを詫び、祖母と仲良く育児をしてほしいこと。末期は諦めず最後まで治療を頑張ること。いつでも自分は父親のそばにいるということが書かれ、封筒に小さい頃の藤原さんの写真が入っていた。

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「母となった自分が体調を崩して初めて、闘病中の母の苦しさ、家族を想う気持ちが分かったような気がします。亡くなってから約30年。コロナや私の病気、父の介護や女性問題、従妹の問題など、さまざまな問題が落ち着いたら、息子を連れて、北陸にある母のお墓へお参りに行きたいと思います」

育児と介護「ダブルケア」は始まったばかり

現在、要介護1と認定されている父親は、近ごろ、「認知症にカレーが良い」と本で読んだと大騒ぎし、近所のスーパーをまわってレトルトカレーを大量に購入した。

また最近初めてトイレに間に合わずに失敗し、ショックを受けたようで、藤原さんが「私が洗濯しておくからいいよ」と言っても聞かず、失敗したトランクスを捨ててしまった。その後、トイレ掃除をし始めたかと思ったら、40分近く繰り返し水を流していた。

夫は、そんな父親に苛立っていることが多かった。藤原さんは自身のレスパイトケア(※)と夫のイライラ解消を兼ねて、時々父親をショートステイに預けている。

※介護者が一時的に介護から解放され、リフレッシュや休息をとる「介護者のため」のケア

1歳半の息子は1500gの未熟児で生まれたものの、幸い障害や病気などは見つかっておらず、健康に育っている。ただ、現在はコロナ禍のため保育園に通うことができない。ストレスがたまり気味の息子は、夜遅くなっても寝てくれず、暴れて藤原さんの顔を蹴ったり、引っ掻いたりすることもあった。

あるとき藤原さんは、突然「もう嫌だ!」とすべてを投げ出したくなったそうだ。

「自分でも驚くほど、唐突に負の感情がわいてきて、『困らせる息子も、父も、夫も、もう嫌だ! 1人になりたい!』と思いました。でも冷静になってからは、『息子に手を出さなくて良かった。父にも夫にも、傷つける言葉を吐かなくて良かった』と胸をなで下ろしつつも、すごく怖くなりました。虐待や暴力は、意外と身近にあるということを、肝に銘じなければと思います」

藤原さんは息子を出産する際、婦人科医に「妊娠高血圧症は、もしかしたら遺伝性かもしれない」と言われていた。それに加え、藤原さんには父親の介護がある。藤原さんは夫と相談し、2人目をもうけることは断念した。

「息子は、自分でできることがどんどん増えています。一方、父は、どんどんできくなっています。病院の帰り道、父は、息子を抱っこして歩く私よりも歩くのが遅くなっていたため、私は父の手を引いて帰りました。私が小さい頃は、父に手を引いてもらったものです。まだ61歳なのに、体力の急激な衰えに驚きと悲しみが隠せません」