中絶規制法案が発効したらどうなるのか

最高裁判決が覆され実際に中絶規制が発動された場合、どのような影響があるのか。

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アメリカのシンクタンクであるガットマッハー研究所によると、アメリカでは望まない妊娠、中絶ともに1980年代にピークを示した後、減少傾向にあり、2017年には自然流産を除く全妊娠の18%が中絶に至っている。

2014年、約75%の中絶は貧困層または低所得者によるものであった。人種的には黒人女性の中絶が1000人あたり27.1人と最も多く、最も少ない白人女性10人の2.5倍以上である。原因は人種差別や経済的理由による医療、医療保険へのアクセスの悪さによるものとされているため、中絶規制は低所得者や黒人の生活や健康に直結する問題であると言える。

バーモント州のミドルべリー大学のマイヤース教授の報告では、現在、アメリカでは各州に少なくとも中絶施設が1つあり、妊娠可能年齢の大多数の女性はそういった施設に車で1時間以内の場所に住んでいる。もし「ロー対ウェイド」が覆されると、41%の女性は近隣の施設が閉鎖になり、これらの女性は現在平均36マイルの距離が280マイル先まで中絶施設がなくなり、年間9万3500人から14万3500人が適切な中絶のサービスが受けられなくなると予想されている。

2017年現在、アメリカ全体では年間86万件程の中絶が施行されたが、これにより14%程度(10万件)減少し、望まない妊娠が増えると予想される。ここでも、移動にかかる費用や休暇を確保できない貧しい女性が特に影響を受けると予想されている。

中絶規制の女性や子供への長期的影響

カリフォルニア大学サンフランシスコ校による、望まない妊娠を中絶した女性とできなかった女性を長期追跡比較調査した結果(Turnaway Study)によると、中絶ができなかった場合、破産や強制退去など社会的に不利な記録を残す可能性が増加し、貧困(2014年の定義では3人家族で世帯収入が$19,790以下)に陥るリスクが4倍、失職のリスクも3倍となる。

食料、交通、住居など生活に必須な金銭も欠く可能性が高く、家庭内暴力を振るうパートナーとそのまま一緒にいるケースが多く、自身と子供を暴力の対象におくだけでなく、その後5年以内にパートナーと別離し生まれた子供を結局単独で育てなければならなくなる可能性も高い。

また、子癇しかんや産後の過多出血など妊娠合併症のリスクも高く、妊娠関連以外の健康も損なう可能性も高い。そういった女性とすでに一緒に暮らしていた子供は、貧困レベル以下の家庭に育つリスクも3倍高くなり、発達遅延が見られることが多い。