感染者を“非国民”視するから広がるコロナ感染の隠蔽

岩橋さんはコロナ除染の現場を通じて、多くの厄介な問題点が見えてきたという。

「現場感覚では、あちこちに感染源が飛び火している感じですね。共通するのは依頼主が、まるで犯罪者になったかのように事実を隠蔽する行動に出ていることです。コロナはインフルエンザのように誰にでも感染する可能性があるのに、社会全体が感染者を“非国民”のような扱いにしてしまう。そのことで、感染の事実を隠そうとする心理が働く。むしろ、社会不審がコロナを広げているとさえ、思います」(岩橋さん)

実際、「奥歯にモノがつまったような」依頼が増えているという。「オフィスの消毒をお願いできませんか。コロナが出たわけじゃないんですけどね……」

岩橋さんは直感的に「コロナ感染が疑われる」と判断し、「コロナ感染者が出た場合の除染は、正直に申告してくださいね」と告げる。だが、依頼主は明らかに挙動不審で、否定も肯定もしないという。

現場に下見に行くと、オフィスには誰もいない。「コロナ感染者が出たことに対して、会社内で箝口令が敷かれている可能性があります……」。岩橋さんは防護服を着込み、万が一の感染に備えて慎重に作業を進める。

写真提供=友心まごころサービス
コロナ感染者が出たオフィス除染の様子

除染の作業の進め方はコロナ除染も、そのほかの除染も変わらないが、コロナ除染の場合、使用する薬剤の濃度を通常の2.5倍ほどにしている。そのため、正直に申告してもらわないと、除染効果が得られない場合があるという。

陽性でも感染をカムフラージュするために無理に出勤

依頼した側としては、感染者を出したという負い目と、コロナが公になれば事業継続ができなくなることへの怖れを抱いていることが多い。これが強まると、検査結果が陽性であってもそれをカムフラージュするために無理に出勤するケースが出てどんどん感染が広がっていきかねない、と岩橋さんは見ている。

依頼主は、近隣の企業や住宅など人目をはばかり、深夜などの営業時間外に除染を依頼することがほとんどだ。

テーブルやドアノブなどに付着したコロナウイルスは3日ほどで不活化するといわれているため、1週間も感染源に立ち入らなければ特段、除染する必要はない。保健所も清掃業者による除染は義務付けていないが、施設の管理者は、除染せざるをえない心理状況になるという。