安易に安い業者に発注すると企業秘密が外部に漏れる可能性が

岩橋さんがコロナの最前線に足を運んで気づいたのは、こうした感染の隠蔽の問題だけではない。情報漏洩の危険だ。

オフィス内で感染者が確認されると、従業員は逃げるように退去する。デスクを整理整頓する間もなく、オフィス外へと出されると、岩橋さんら除染スタッフが入る。デスク上には業務上の契約書、個人情報が書かれた書類などの機密書類がそのまま散乱している場合もよくあることだと、岩橋さんは明かす。

「大切な書類にも薬剤を噴霧する必要があります。私たちは印字がにじまないように一枚一枚、書類を裏返して消毒するように心かげています。感染者が出たオフィスはしんとして、時間が止まったような空間。飲食店の場合は、スプーンが刺さったままの香辛料の容器が厨房に置いたままになっていたりする。残されたものに薬剤がかからないように、一つひとつ養生して、消毒していきます。危機管理上、オフィスでは普段からきちんと整理整頓しておいたほうがいいです。衛生的にもよくないですし、悪意のある業者が除染を手掛けると機密情報が漏れてしまう可能性もあります」

岩橋さんが代表を務める友心では、除染の基本料金が1平方メートルあたり2000〜3000円。書類や段ボールが山積みされたようなオフィスの除染は手間がかかり、コストが高くなるという。

「コロナ除染ではすでに業界の価格破壊が起きています。1平方メートルあたり1000円を切るような業者もありますが、そのクオリティには疑問を抱かざるをえません。相見積もりをとって、一番安い業者に、という安易な発想はコロナ除染の場合、危険です」

コロナで高齢者の「ゴミ屋敷孤独死」急増している

本業である特殊清掃の依頼も、昨年は1.5倍ほどに増えた。特に高齢者がゴミ屋敷状態の中で死亡し、発見が遅れるケースが目立つという。

内閣府の「高齢社会白書」(2020年)によれば現在、65歳以上の一人暮らしは700万人を超えている(推定)とみられる。この数字はうなぎ上りに増え、2040(令和22)年には900万人近くまで達するとの試算がある。内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査」では、一人暮らしの高齢者のうち45%が「孤独死を身近な問題と感じている」と回答している。それが、コロナ禍による家族、地域社会の分断で深刻さを増してきているのだ。

除染に入る前の「ゴミ屋敷」(写真提供=友心まごころサービス)
除染に入る前の「ゴミ屋敷」(写真提供=友心まごころサービス)

「一人暮らしの高齢者とはいえ、普段は何かしらの地域コミュニティに関わっているものです。例えば、趣味のサークルや老人会など。仮に孤独死の危険があるような方は平時であれば、地域の民生委員の方が定期的に様子を見にきていることも多い。しかし、コロナ禍では老人会などが中止に追い込まれ、民生委員の方の活動も自粛が余儀なくされています。年末年始などの家族の帰省もなく、完全に孤立した状態の高齢者があちこちにいることが考えられます」

地域や家族との接点がなくなった高齢者の中には、急激に認知症が進行してしまうケースがある。すると、次第に居住空間はゴミ屋敷と化していく。コンビニ弁当や缶詰などを食べ残したままゴミに出さず、次第に部屋中にゴミが積み上がっていく。そして、ある時、ゴミに埋もれた状態で、遺体が発見される(※)

※高齢者のゴミ屋敷問題に関しては岩橋さんの会社で作成しているYouTube「友心チャンネル」を参照いただきたい。

「コロナ禍が始まってわずか1年で、そうした事例がずいぶん増えているように感じます。高齢者の孤独死の増加もコロナウイルスの影響と考え、国や行政はサポートしていく対策を打っていくべきでしょう」(岩橋さん)

たとえば、高齢者でも簡単に使えるようなオンラインのコミュニケーションツールの開発や、地域見回りサービスの拡充、町内会の復活など、高齢者と社会とをつなぐ仕組みの構築が急がれる。コロナ感染症による「直接死」だけではなく、「間接的な死」へももっと目を向けていかねばならない時期にきていると思う。

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