「家族の愛」を欲していたシンジ

シンジが欲していたのは、何だったのか?「家族の団欒」「家族の絆」です。

樺沢紫苑『父滅の刃 消えた父親はどこへ』(みらいパブリッシング)

そして彼に足りなかったのは、家族の愛。母親の愛と父親の愛。萎縮した性格、ネガティブな性格は、父親に自分を肯定されたことがなかったから。父親と普通に食事をしたかった、つまりごく普通の親子関係を求めていたのに、それが満たされなかった。

彼は母親に肯定されたこともありません。幼児的な万能感を育てるのが母親の役割ですが、母親が早くに亡くなったため、そうしたポジティブな体験をしていないのです。当然、自分に自信が持てない性格になるでしょう。

それまでのシンジの全行動、全セリフが、ごく短い「家族団欒」の願望シーンによって、全て説明されていると思います。「人類補完計画」の謎については説明されませんでしたが、シンジが補完して欲しかったものは、極めて明確に描き出されているでしょう。

シンジにとって『エヴァンゲリオン』は、父性と母性の補完計画だった、ということです。

綾波レイをめぐる三者関係

エヴァンゲリオン零号機のパイロット、綾波レイ。シンジはレイに関心を抱き、またレイも、2人の絆が深まるとともに、徐々に感情を見せ始めます。

レイは、シンジの母ユイと容姿がそっくりです。ゲンドウはレイに特別な感情を抱いていました。自らの命をかえりみず、レイを助けるシーンもあります。また、ほとんど感情を表さないレイが、ゲンドウとは楽しげに話をしたり、笑顔も見せています、ゲンドウの眼鏡を大切に持っていたといった描写から、レイもゲンドウに特別な感情を持っていたのでしょう。

物語の後半で、レイはユイの現身うつしみ、クローン的な存在だと明らかにされます。自分の理想の女性ユイを求めていたゲンドウの願望は、満たされるはずがありません。レイもまた、自分が使い捨ての道具としてしか見られていないと感じたのか、次第にシンジに惹かれていきます。シンジがレイに惹かれているのは明らかです。「母親」のイメージを重ねているのです。学校の掃除当番で雑巾を絞るレイに「なんだかお母さんって感じがした」と言います。