生活レベルが同じなら、半数近くが「今すぐやめたい」

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」において、現在就業をしている人に対して「働かなくても今と同じレベルの生活が続けられるとしたら、仕事をやめたいと思いますか」と尋ねたことがある。本調査が先の調査と決定的に異なる点が、「働かなくても今と同じレベルの生活を続けられるとしたら」という前提を付している点だ。

同調査を集計してみると、全年齢で「強くそう思う」と答えた人は20.8%、「そう思う」と答えた人は25.9%にのぼった(図表2)。同じレベルの生活が続けられるのならば、定年を待たずして今すぐにでも仕事をやめたい人が半数近くいるのである。

同調査においても、60歳以上の年齢の人に対象を絞れば仕事を辞めたいという人は減ることが確認される。どうやら、高齢者の方が比較的に仕事に対して肯定的な感情を有している人が多いことは確かなようだ。

とはいえ、60歳以上の人に対象を絞っても「全くそう思わない」と答えた人は全体の10.5%、「そう思わない」と答えた人も27.6%に過ぎなかった。お金にかかわらず働きたいという人が少数派であることには違いないのだ。

私たちはいつまで働くのか

しかも、これは就業している人に限定した数値である。就業意欲が低い人は既にやめてしまってサンプルから脱落しているだろうから、この数値は実際の感覚値よりも高めに出ている可能性が高い。

坂本貴志『統計で考える働き方の未来 高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)

この結果をみると、8割の人が高い就業意欲を持っているという主張には違和感を覚えざるを得ない。どうやら、世の中の人は、高い就業意欲を持っているから高齢になってでも働きたいわけではなさそうなのである。そうではなくて、生活のために収入を稼ぐ必要があるから、多くの人は高齢になっても働きたいと思うのだ。

おそらく、これが高齢者が就労するかどうかの選択肢に直面したときの実際の姿なのだろう。これをもって、高齢者みなが高い就業意欲を持っていると評するのは、あまりに無理がある。

もちろん、仕事が生きがい足りえないものだと言うつもりは、毛頭ない。実際に、3人に1人の高齢就業者は、生活水準が変わらなくとも働きたいと思っているのだから。しかし、高齢者の労働を美化するような世の中の風潮には強い疑問を感じるのである。

将来の私たちは「働かねばならないから働く」

超高齢社会の日本において、その経済・財政の状況が危機的なものとなっていることは周知のとおりである。つまり、「働きたいから働く」というメッセージはまやかしにすぎないのである。将来の私たちは「働かねばならないから働く」のだ。

こうした中、これまで勤めてきた会社で高齢者に現役世代と同じ仕事をさせることが、未来の日本のあるべき姿だとは思わない。経済が厳しい状況下にあっても、高齢期における安穏とした生活を私たちは守り切らねばならない。

高齢者が増え続ける未来において、安易にこれまでの会社で継続雇用を促すべきではない。経済のために働き続けなければならないという未来が、超高齢社会を迎えた日本における避けられない姿なのだとすれば、より多様な働き方の選択肢を示すことが必要なのではないか。

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