メンタル維持法「最初から万人受けを狙わない」

撮影=原貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】プロスポーツの世界は、ストレスや重圧も尋常ではないと思うのですが、どうやってメンタルを維持されるんですか?

【杉山】最初から万人受けを狙わないことかもしれません。「本当にわかってくれる人にわかってもらえばいい」というのが根底にあるんですね。たとえば、私も最初のころは完全にアウェーの環境で試合をすることが多かったんですけれど、テニスのファンって目が肥えているので、自分が良いプレーをすると段々応援してくれるようになるんですね。それに気づいてからは環境に左右されづらくなりました。

【三宅】杉山さんとしては、自分のプレーに集中していればいいわけですね。

【杉山】そうです。コメンテーターのお仕事をするときも、別に極端なことを言うわけではないですけれど、やはり根底には「わかる人にわかればいい」というのがあるので、あまり重圧のようなものは感じません。

対戦相手ではなく自分の力を出すことにフォーカス

【杉山】あと、本当に調子が良いときは、周りの声が聞こえなくなるものです。試合に入り込んでいて、自分のプレーに集中できる。その状態になったほうがいいパフォーマンスができることが経験上わかっていたので、できるだけ自分のプレーに徹するように意識していましたね。

【三宅】対戦相手のことはどれくらい意識するものですか?

【杉山】これもやはり同じで、「自分のやるべきことをしっかりやる」という方向に照準を置くようにしていました。25歳でスランプを経験するまでは、対戦相手のことや勝ち負けの結果がすごく気になって、常に自分の感情が揺さぶられながら生きていたなと思うんです。ただ、テニスは対戦相手がいるので、自分がいくらベストパフォーマンスをしても、実力が上の人がそれ以上のパフォーマンスをしたら、負けてしまいます。勝ち負けも大事ですが、それよりも自分のベストを出すことが重要だと思うようになれたんですね。

むしろ普段から自分の物差しをきっちり持って、自分が今出せることをオールアウトすることにフォーカスしていけば、試合に負けたとしても自分に足りないものが明確に見えてきます。「今日の相手はここが上手かった。ここが自分は足りなかった」。そういったことを冷静に把握して、その課題を1つずつクリアしていけば、必ずより良い選手、より良い人間になれるんだというシンプルなことに気づいたんです。

【三宅】外を見るのではなく、内を見ると。

【杉山】そうですね。相手の実力やコンディションは自分ではコントロールできません。でも、自分の能力を100%引き出せるかはコントロールできます。「自分でコントロールできることは徹底しよう」という考え方に変わってから、精神的にもだいぶ楽になりましたし、自分の力を出し切りやすくなりましたね。