胸にぽっかり穴が空いた時期に、やりたいことを言語化

【三宅】「人生を前向きに生きるにはどうしたらいいか」という問いに対するひとつのヒントとして、杉山さんが書かれた『杉山愛の“ウィッシュリスト100” 願いを叶える、笑顔になる方法』(講談社)という本は素晴らしいと感じました。ウィッシュ、つまり「やりたいこと」をどんどん言語化して、実際にやっていこうと。どういう意図ではじめられたのでしょうか?

【杉山】引退が早いスポーツ選手によくあることだと思うんですけれど、私も現役を引退したあとに「この先の人生をどう生きるか」についていろいろ模索していた時期があって、そのときにたどり着いたんです。

私は4歳でテニスに出会って、どんどんのめり込んで10代でプロになったわけですが、感覚的にはまるで夢の中で生きている感じなんですね。「これ以上の天職は絶対にない」と。しかも34歳で引退をする時点で「できる限りのことはやり切った」という感覚も強かったんですね。

【三宅】なるほど。

【杉山】本来なら引退後に半年ぐらいゆっくり時間をとって、自分と向き合いながら次の人生について考えようと思っていたんですけれども、引退した翌日からいろんなお仕事のオファーが舞い込んできました。よくありますよね。スポーツ選手が辞めるといろんなメディアに呼ばれたり、トークショーがあったりとか。

もちろん、それはありがたい話ではありました。ただ、そういった生活をしていると、身体は忙しいけれどもマインドがどこに向かっているのかわからないバランスの悪い状態が続くんですね。しかも、そんな状態にいるのに「次なる目標はなんですか?」と決まって聞かれる。私はそれがすごくストレスで、一応、笑顔で答えるんですけど、内心「そんなことわかんないよ!」と思っていたんです。

【三宅】定年退職した翌日に「で、次は何を目指すのお父さん?」と聞かれているようなものですからね(笑)。

【杉山】まさに(笑)。自分が全力を注いできた人生の第一幕がようやく終わった直後にそんなにすぐに大きな目標が見つかるわけもなく、胸にぽっかり穴が空く時期がありました。そんなときですね。「自分は何をしたいのか」を書き出してみようと思ったのは。

引退後、自分に与えた10年の猶予期間

【杉山】「どうせだったらたくさん書こう」と思って100個を目標に書きはじめたんですけど、いざやってみると20、30個で手が止まったんですね。「え? これしかないの」という感じではあったんですけれど、そこからさらにアイデアを絞り出して書き足していったら、100個ぐらいになりました。

【三宅】考えるだけではなく、書き出すのがいいですよね。

【杉山】そうなんです。書き出すと優先順位が見えてくるんですね。私の場合、1位が結婚で、2位が出産でした。結婚は何歳でもできるかもしれないけど、出産はタイムリミットがあるなと思い出したら、「この先10年はプライベートを優先しよう」という方向が見えてきたんです。仕事ももちろん大事ですけれど、今までテニスの世界で全力で頑張ってきたので、とにかく次の10年はプライベートを中心に生活して、その間に本当にやりたい仕事、「これが天職だ」と思える仕事を見つければいいじゃないかという発想になりました。自分に猶予期間を与えることですごく気が楽になりましたね。

【三宅】人生は長いですし、仕事だけが人生ではないですからね。

【杉山】そのことに気づけたことが良かったですね。とくに女性は出産・育児とキャリアのバランスをどうとるかという難しい選択があるわけですけど、ウィッシュリストのようなかたちで自分が望む人生を一度言語化して整理してみるというのは、おすすめしたいですね。