「人気のある陰謀論」という矛盾

映画『カプリコン・1』(1977年、監督ピーター・ハイアムズ)では、「NASAが有人火星探査を行ったと発表したが、それが実は捏造だった」というストーリーが展開されます。

この映画は、アメリカで根強い「アポロ計画陰謀論」を題材としています。アポロ計画陰謀論とは、1969年にアメリカが達成した人類の月面着陸が実は捏造だった、月面着陸に成功していないのにアメリカ政府がそのようにみせかけた、というものです。

ここで興味深いのは、陰謀論がある種の緩みのない世界、つまり強い力を持つ人や集団の存在が、その力によって特定の意図した結果を、誰にも気づかれずに導こうとする世界を想定しているのに対して、実際には「陰謀」を実に多くの人が活発に語り合っていることです。

アポロ計画陰謀論については、非常に多くの書籍やテレビ特番がこれを題材として取り上げてきました。日本でも、どこまで本気かはわかりませんが、多くの有名人が陰謀説を支持する、と表明しています。

陰謀を主導した者が本当に力を持っているのなら、そもそも陰謀論の語りも目立たなくなるはずです。そういう意味では、陰謀論が活発であること自体が陰謀論自身への反証にもなっているのです。

人は誰かのせいにしたがる

陰謀論が「ハリウッド受け」するということは、それが人々のある種の快楽に訴えるところがあるのでしょう。アドルフ・ヒトラーが人種差別政策を展開する上で「シオン長老の議定書」から影響されたといわれていることからもわかるとおり、陰謀論は政治の世界で深刻な影響力を持つことがあります。

ヒトラー率いるナチ党の政策が、その残虐性にもかかわらず一定の共感を得てしまったことの背景には、人々が陰謀論に惹かれやすいという事実もあるはずです。

また、オックスフォード大学の政治学者ジェイムズ・ティリーは、「Why so many people believe conspiracy theories(なぜ多くの人が陰謀論を信じているのか)」というBBCへの寄稿記事のなかで、人々が何らかの悪い結果をすぐに政治家のせいにする、そしてそれは「政治の日常(everyday politics)だ」と論じています。

そこでは、1916年にアメリカのニュージャージー州で次々に人がサメに襲われた、という事件をあげ、なんとこの地域で、当時の大統領ウッドロウ・ウィルソンの支持率が下がってしまったという例が出されています。