ロシアのウクライナ侵攻が始まってから約1カ月。ネット上には多くの情報が飛び交うが、偽情報や誤解を招く情報も多く、政府機関もその背後に見え隠れする。ジャーナリストの大門小百合さんが、ロシアやウクライナをめぐるフェイク情報についてリポートする――。
ソーシャルメディアのコンセプトでスマートフォンを使う手
写真=iStock.com/CASEZY
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ロシア大使館が発信するツイッター

メディアは戦争下になると、プロパガンダマシーンになる危険性が高まる。しかし、これほどまでプロパガンダや偽情報が飛び交った時代は、かつてあっただろうか。毎日SNSで流れてくるウクライナ関連のニュースを見ながら、ロシア側とウクライナ側の主張のあまりの違いに、一体何が真実なのかと混乱している人も多いと思う。実際にここ数週間、どのような偽情報が飛び交っていたかを見ながら、考えてみたい。

今年3月4日、スイス・ジュネーブにあるロシア大使館のツイッターアカウントから、「Western and Ukrainian #FakeNews(西側とウクライナのフェイクニュース)」として英語の動画が投稿された。こんなことを言うと不謹慎かもしれないが、数々のフェイク映像が集められたこの動画、実によくできているのだ。

動画では、「ロシアの空挺部隊がキーウ(キエフ)を襲撃。その直前の映像」という説明のある、戦闘機が編隊を組んで飛んでいく映像について、実際は2020年にモスクワで撮影された軍事パレードだと紹介している。また、ロシア軍が何発ものロケット弾を地上から発射している映像は、本当は1年前の軍事訓練の映像だったという。

国連大使が取り上げたロシア兵士のメッセージ

極め付きは、戦争で亡くなったロシア兵の携帯に残された、母親とのやり取りとされるメッセージを紹介する、ウクライナの国連大使の映像だ。このメッセージは、ロシア軍がウクライナの一般市民も攻撃しているとして、兵士が自分の任務について「つらい」と母親に吐露する内容で、多くのメディアが取り上げた。しかしこの動画では、この映像が流れると、「ロシア兵士は戦闘任務についている際、携帯電話、特にiPhoneの使用は許されていない」というナレーションが入る。国連大使が示しているのがiPhoneのメッセージ画面に見えるため、暗に、「このロシア兵のメッセージはフェイクなのではないか」と指摘するものだ。

こうした動画からは、「ウクライナはこんなにウソをばらまいている」という主張が読み取れる。何も知らずにこれだけを見ると、まるでウクライナ政府が戦争を捏造ねつぞうしているのではないかと勘繰りたくなるぐらいだ。さらに巧妙なのは、「皆さん、常にファクトチェックをし、すぐに反応する前に立ち止まって考えましょう」と呼びかけ、善意のファクトチェック動画を装っているところだ。

ウクライナ侵攻後、ロシアは報道規制を強化し、ロシア軍などに関する報道について、当局がフェイクニュース(偽情報)とみなした場合、記者らに最大15年の禁固刑を科すと発表した。ツイッターやフェイスブックなどの多くのソーシャルメディアも、ロシア国内からはアクセスできなくなってしまった。

このようにプロパガンダや誤情報がネット空間に急激に増え続ける中、私たちは、何を見て、何を信じ、ネットの情報と付き合っていけばよいのだろうか。