なぜハリウッド映画には「世界を操る悪の組織」がたびたび出てくるのか。社会学者の筒井淳也氏は「人にはわかりやすい善悪二元論を好む傾向がある。だから『悪の組織』という陰謀論がハリウッド映画の題材になりやすい」という——。

※本稿は、筒井淳也『社会を知るためには』(ちくまプリマ―新書)の一部を再編集したものです。

アメリカは月に足を踏み入れたことがないという陰謀論:月面着陸のスタジオ撮影
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陰謀論者は“なんとなく”を考えない

もし社会が明確で体系的な「目的と手段の関係」で構成されているのならば——たとえば女性の職場進出という目的のために、手段として法律を制定する——、要因間の関連はすべて意図されたものであり、意図せざる結果は生じない、ということになります。

こういった場合、その関係に緩さはなく、きっちりとしたものになります。意図した結果を阻むものがあるとすれば、それをよしとしない価値観を持つ人の別の意図による、ということになります。

つまり、女性の職場進出を進めようとする立場と、それを阻もうとする立場の対立です。

この世にたくさんある陰謀史観あるいは陰謀論というのは、このような「目的と手段の緩みのない関係」の世界を想定しています。何か悪いことが生じたときに、「なんだかよくわからないけどこういう結果が生じた」と考えるのではなく、その結果を引き起こそうという明確な意図をもって行動した者が必ず背後にいる、と考えるのです。

映画ではしばしば陰謀論が登場しますが、それは陰謀論と善悪二元論の相性が良くて、物語の題材にしやすいからでしょう。