ラブロフ外相「敗戦国には領土を要求する権利はない」

世界でラブロフ外相の退陣を最も望んでいるのは、日本政府かもしれない。同外相は他の外交ではソフトな側面も見せるが、こと日本になると終始高飛車に振る舞い、譲歩姿勢を一切見せなかった。

安倍晋三前首相とプーチン大統領は2年前、歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年日ソ共同宣言を基礎にした平和条約交渉加速化で合意、19年から両国外相を首席代表にして本格協議に入ったが、ラブロフ外相は冒頭、第2次大戦の結果、4島がロシア領になったことを公式に認めるよう要求。これを交渉の「前提条件」とし、毎回繰り返した。4島をロシア領と公式に認めるなら、その時点で北方領土問題は法的に決着してしまい、日本は応じられない。

北方領土の歯舞群島が眼前の北海道納沙布岬

ラブロフ外相はさらに、島を返すと米軍基地が設置される恐れがあるとし、日米安保条約破棄にも言及。日本側が応じられない条件を次々に投げてきた。

外相は場外でも、「日本は戦後の国際秩序に従わない唯一の国だ」「敗戦国には領土を要求する権利はない」「島は返さないし、平和条約締結をお願いすることもない」「北方領土という言葉を公式文書で使うべきでない」などと言いたい放題だった。

根室市役所横に立つ「国民悲願の声」

SVRは「二島で済むなら、早くやったほうがいい」

これに対して日本外務省当局者は「旧ソ連は『大戦の結果を尊重せよ』とは言ったが、『ソ連の領有を合法と認めよ』とまでは言わなかった。北方領土という言葉を使うなとも言わなかった。外相がこれでは交渉にならない」とこぼしていた。国連外交の長いラブロフ外相は戦勝国史観が強いが、一連の反日発言は尋常ではなかった。外相交代でもロシアの強硬姿勢は変わらないが、交渉の雰囲気を変える効果はあろう。

日本側にとっては、「ナルイシキン外相」が望ましいかもしれない。親日派のナルイシキン氏は下院議長時代、「日本におけるロシア年」などの文化イベントで毎年来日し、日本政界にパイプが太い。実弟はロシアのたばこ市場最大手、JT(日本たばこ)子会社の幹部だ。

ナルイシキン長官は昨年4月、秘密裏に短期間訪日し、河野太郎外相(当時)ら要人と会談している。訪日目的は不明だが、難航していた平和条約交渉で打開策を探るのが目的とみられた。日本政府はナルイシキン、コザク両氏には制裁を課しておらず、訪日は自由だ。

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、著書『ロシアを知る。』(東京堂出版)で、「SVRはこの組織出身のプーチンに対して特別な親しみを持っている。……プーチンを守るために、平和条約の加速化に外務省よりはるかに意欲的です。二島を渡すだけで済むなら、早くやってしまったほうがいい」と分析している。

安倍外交の継承をうたう菅義偉政権の対露外交は、ロシア外相交代問題が最初の試金石になるかもしれない。

知床半島羅臼では国後島に昇る朝日の輝きが見える
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