全国の研究機関に大きな影響を与えた

加えて「声明」は、「大学等の各研究機関は、……軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる」といった言い方で、「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究」の自粛を要請した。

「研究の適切性」を「科学者を代表する機関としての日本学術会議」が「今後も率先して検討を進めて行く」と宣言したこともあり、これらの自粛要請は、全国の数多くの研究機関で、深刻に受け止められた。

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さらに「声明」採択の翌月に「幹事会」決定となった「軍事的安全保障研究について」文書は、「軍事的安全保障研究に含まれうるのは、ア)軍事利用を直接に研究目的とする研究、イ)研究資金の出所が軍事関連機関である研究、ウ)研究成果が軍事的に利用される可能性がある研究、等」だと定義した。

加えて、「民生的研究と軍事的安全保障研究との区別が容易でない」としたうえで、基礎研究であっても軍事的安全保障研究に該当しうること、自衛を目的にした技術であっても軍事的安全保障研究に該当すること、などを詳細に列挙した。そして、「研究の『出口』を管理しきれないからこそ、まずは『入口』において慎重な判断を行うことが求められる」という方針を打ち出した。

「軍事目的に転用」される疑いがありうるものを研究してはいけない、という理解が、上記の指針とあわせて、全国の研究機関に行きわたったことの余波は大きかった。実際に、実施されるはずだった研究が中止に追い込まれる事例も生まれた。「声明」発出の5カ月後に、「安全保障と学術に関する検討委員会」が公表したレポートによれば、「安全保障技術研究推進制度」で研究費を得た大学所属の研究者は一人もいない結果となり、さらに多くの大学で同制度への応募を禁じる方針が導入された。