「民主主義科学者協会法律部会」に属する法学者の影響力

こうした歴史を持つ同会議が、長期の自民党政権下で国家機関の一つとして予算を確保しながら、政府からの独立性を主張できる組織として存続してきたのは、戦後日本の複雑な社会事情の反映である。

結果として、時々の政府と日本学術会議との関係は、敵対と談合の波を繰り返しながら、紆余曲折を見せてきた。最近の動きを引き起こしたのは、やはり2015年の安保法制をめぐる喧騒だろう。憲法学者の多くが違憲だと主張した安保法制の導入をめぐって、左派系の運動が盛り上がった時だ。

安保法制懇を通じて、安保法制成立の基盤となったのは、国際政治学者や国際法学者たちであった。日本学術会議でのプレゼンスが小さい層だ。これに対して、日本学術会議では、安保法制に反対した法学者の方々の比率が大きい。中でも相当数が民主主義科学者協会法律部会(以下「民科」と記す)という共産党系の組織に属する方々である。

210人の日本学術会議会員は3部に分かれ、人文・社会科学系の会員は70人枠の第1部に属する。その中で法学者は例年2割の15人程度を占める。その法学者の3分の1(以上)の4~7人が「民科」に属する者であるのが通例である。

こうした伝統と構成を持つ日本学術会議が、2015年の安保法制をめぐる喧騒後に、「1950年声明」の伝統に訴える運動を起こしたのは、むしろ必然的であった。なお今回、3人の「民科」の法学者が会員任命を拒否されたので、上記の比率は、法学者11人に、公開情報で確認できる限りでは「民科」枠は1人に、激減となった。

軍事的安全保障研究をめぐる「自粛要請」

2016年に、日本学術会議に「安全保障と学術に関する検討委員会」という特別な委員会が設置された。翌年に日本学術会議の会長に就任することになる霊長類学者の山極寿一・京都大学総長も、委員の一人であった。この「安全保障と学術に関する検討委員会」における審議内容を採択する形で、「軍事的安全保障研究に関する声明」が、2017年3月に「幹事会」で決定された。

この「声明」では、同委員会設立の直接的なきっかけである防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」(2015年度発足)が名指しで「政府による研究への介入」と断定された。そして「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」といった言い方で、研究者の同制度への参加の自粛が要請された。