少数学者の決定の下に政治色の強い「声明」が出る
このような重大な内容を持つ「声明」であったが、それを決定したのは、「幹事会」のわずか12人が出席した会合であった。また、「声明」は非常に政治的色彩の強い内容を持つものであったが、「幹事会」が部会代表によって構成されるものであるため、出席者の中で安全保障問題に近い政治系の学者は、杉田敦・法政大学教授(政治思想を専門とする政治学者)ただ一人であった。
ちなみに杉田教授は、「安全保障と学術に関する検討委員会」の委員長でもあったが、そもそも、この検討委員会も主に部会代表によって構成されたため、社会科学者は委員長の杉田教授を含めて15人中わずか3人であった。残りの2人、佐藤岩夫・東京大学社会科学研究所教授と、小森田秋夫・神奈川大学特別招聘教授は、2人とも「民科」元理事の法学者であった。つまり一連のプロセスに関与した社会科学者は、杉田教授と、「民科」の法学者2人だけであった。
同委員会を引き継ぐ形で、「声明」に関する事項を扱うために2018年に設立されて現在も続く「軍事的安全保障研究声明に関するフォローアップ分科会」は、12人の会員から構成されるが、人文社会科学分野からは4人(社会科学者3人)が入っている。この中に「安全保障と学術に関する検討委員会」から引き続き委員を務める方が2人いる。委員長に就任した佐藤教授と、連携会員で連続して委員を務める小森田教授である。この2人以外に、二つの委員会の委員を連続して務めている者はいない。つまり「民科」元理事の法学者2人だけが二つの委員会に連続して参加しており、加えて委員長ポストも得たわけである。
任命拒絶で「民科枠」が維持不能に?
10月1日に新たに任命された会員99人のリストと、継続会員のリストなどを見ると、佐藤教授と小森田教授が、任期切れで退任したことがわかる。佐藤教授の東大社会科学研究所の同僚の宇野重規教授は、今回の任命拒絶対象の6人のうちの1人である。比較法・社会主義法を専門とする小森田教授の後任にあたる人物も任命されているように見えない。今回の任命拒絶によって、「フォローアップ分科会」の中に委員長ポストを含む2人の「民科」枠を維持することが不可能になったのみならず、それに近い構成を維持することも不可能になった、と言えるのだろう。
このような様子をふまえると、今回の任命拒否事件に、「学問の自由への侵害」で「少数者を排除」する暴挙だ、といった共産党機関紙『赤旗』などから発せられた類いの批判だけでは理解しきれない側面があることは、明らかだろう。