王座を降りた村長は暮らしていけるのか
敗北から数カ月後、敏和は得意の語学力を活かし、島で週1回の韓国語講座を始めた。新聞の折り込みチラシで呼びかけると13人の応募があった。
「人口2000人の村で13人も集まるということは、2万人の町なら130人──と同じことでしょう。これはすごいことです」
一方、島の人たちは喜寿を間近に控えた村長の「老後」を心配している。昭夫は30代で東京からUターンして以来、「普通の人」として暮らした経験がないからだ。
島を出る時はフェリーの特別室に1人で座り、対岸に置かれている運転手付きの公用車で行動してきた。四半世紀以上、フェリーの切符を買ったことも、一般席に座ったこともない。
「村長を辞めて、役場の職員を召し使いのように使えなくなったら、暮らしていけないんじゃないか」
そんな声もある。
仮に次の選挙で敗れても、適任者を見つけて禅譲しても、積年の埃《ほこり》は出てくるだろう。私が島に滞在した4日間に聞いた証言を総合すると、昭夫の政治は情実にとらわれ、公私混同甚だしいという評価だ。これ以上、晩節を汚さないためには、早いうちに先代のような「殉職」を遂げるしか道はない──。
そんな縁起でもない陰口も叩かれているが、昭夫は強気だった。
「次も誰が出ようと、ボクが出れば同じこと」
昭夫の村長任期は2020年11月25日に満了する。瀬戸内海に浮かぶ「最後の王朝」は、その日まで続くことは確約されている。
だが、その先の確かなことは、島の誰にもわからない。