全国には、何十年も選挙が行われていない町や村がある。そのうちの一つだった北海道中札内村では2017年、コンビニ店員が現職との一騎打ちを制し、村長に当選した。彼はなぜ選挙に勝てたのか。ノンフィクションライターの常井健一氏が取材した——。
※本稿は、常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
セブン-イレブンから生まれた村長
北海道河西郡中札内村(人口3942人、2017年8月末時点)。果てしない大空と広い大地の中には、見渡す限りの野菜畑が横たわり、一直線の道路が碁盤の目状に張りめぐらされている。16万人都市の帯広市内まで車で40分、帯広空港まで15分と交通の便も良い。そのため、村役場の近くにある「道の駅なかさつない」は、年間70万人が利用するという。
これは旅行サイトが調べた「道の駅ランキング」(2017年)で、全国16位、道内2位に選ばれるほどの人気ぶりだ。
そこから1キロのところに1軒のセブン-イレブンがある。道の駅が閉まっている夜間や早朝は、そこが長距離ドライバーたちにとっての「オアシス」となる。平日の朝8時半、私は朝食を買い求めようと訪ねたところ、おにぎりやサンドイッチの棚はすでにからっぽ。仕方なくコーヒー1杯を買い求めるために、レジの前にできた長蛇の列に並んだ。
儲かってまんな。
そんな繁盛店のコンビニから村長が生まれた。本稿の主人公である森田匡彦(取材当時50)は、中札内村長選の2カ月前までレジの「内側」に立っていた。
「3年間、コンビニでの接客を通じて、モリタがどのような人物か、村民のみなさまにじっくり見てもらいました」