選挙で負けるとこれまでにない「無理」が候補者本人だけでなく、一家全体にのしかかるものだ。家計だけでなく、心身にも負担を強いられ、体調も家庭も人間関係までも壊れるケースは少なくない。それも地方選のリアルである。

「あんた、こんどの村議選に出ろ」

森田家のサバイバル生活は4000人にも満たない小さな村の語り草になった。つい先日まで村じゅうに貼り出されていたポスターと同じ顔が、どういうわけか、コンビニのレジにある。40代半ばを過ぎたオッサンが、学生バイトの中に交じって、店内を走り回っている。そして、レジを打つ手は情けないほどぎこちない――。敵も味方も関係なく、同情論が湧いた。

「自分に票を入れてくれなかったような人でも初めは私を見て、表情が硬くなったのが、毎日顔を合わせているうちにだんだん打ち解けていきました」(森田)

選挙の敗因は知名度不足だった。コンビニはその弱点を埋めるのにもってこいだった。さらに、レジに立っているだけで、地域の問題が次々と耳元まで舞い込んでくる。やがて、客からこう言われることが増えてきた。

「あんた、こんどの村議選に出ろ」

村長選の敗北から2年後、2015年4月の村議選(定数8)に森田は出馬した。投票総数の4分の1に当たる708票という村の史上最多得票で、2位に300票以上の差をつけるぶっちぎりのトップ当選を果たした。

コンビニとの兼業を続け、2度目の出馬

森田は議員バッジを付けてからも、コンビニの仕事を続けた。

村議の報酬は月16万円ほど。真面目に政治活動をすれば、すぐに底をつく。しかも、森田家にはマイホームのローンが残っている。さらに高校生の長男は医学部受験を考え始めた。とにかく生きるためにお金が必要だった。

コンビニはシフトをうまく組めば、議会との兼業も成り立つ。アイドルの手法じゃないが、森田は「会いに行ける村議」を標榜した。村民の生の声を集めるのにもコンビニは都合が良かった。

2017年3月、長男は晴れて国立大学の医学部に合格した。

森田がほっとしたころ、現職村長の田村は「次」に向けて動き始めた。決断が遅れた前回とは打って変わって、早々に4選出馬を表明したのである。それには、田村の後援会幹部でさえも意表を突かれたと話す。