「コンビニ村長」、誕生へ

「森田がすごい得票で村議選に勝ったばかりだから、われわれも田村は3期でやめると思ったんですよ。しかし、田村は前回の勝利で変な自信を持ってしまっていた。とにかく役場の中にこもるような性格だから、自分は世間からどう思われているかなんて、わからない人間なんですよ」

告示から5日目に訪れた選挙戦最終日。現職の田村陣営は役場前を、森田陣営は役場のすぐ裏手にある農協の空き地を、それぞれのマイク納めの会場に選んだ。

最後、森田の妻がマイクを握った。4年に及ぶ浪人暮らしの辛さをしみじみと代弁すると、聴衆の涙を誘った。森田本人は相手陣営よりも倍近い約400人が集まった会場の様子を見回しながら、心の中で勝利を確信していた。

翌日、森田は137票という僅差で現職を破った。新聞記者から転じた一介のコンビニ店員が「コンビニ村議」になり、ついには「コンビニ村長」になった。

一度叩き落し、持ち上げた彼らの心理とは

村の開票所に詰める支援者から「当選確実」の一報が入ると、森田事務所にはドッと歓声が沸いた。

森田は妻と並んで万歳三唱。集まった支援者にはこう語ったという。

「今まで支えてくださったみなさまに感謝を申し上げます。ともに明るい未来を実現していきましょう」

祝賀ムードの最中、こんどはこんなアナウンスがこだました。

「たった今、鈴木宗男先生からお祝いの電話が入りました!」

常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』(KADOKAWA)
常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』(KADOKAWA)

現地に駆け付けられない鈴木は当確が打たれたタイミングを狙ったのだろう。その場に居合わせなくても、携帯電話を巧妙に活用すれば、大人数に自分の存在感を知らしめることができる。

やっぱり鈴木宗男は抜け目なかった。

かつて「試される大地」と呼ばれた北海道で生き抜く政治家たちの生命力たるや、すさまじいものがある。

私はそんなこぼれ話をその場にいた地元の政治家から聴きながら、1度目は「エリートサラリーマン」の顔をしてやってきた森田を叩き落とし、2度目の村長選ではコンビニでの下積み生活を耐え抜いた森田を当選させた、開拓民の末裔まつえいたちの心理と論理がなんとなくわかった気がした。

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