全ての自動車メーカー合計の時価総額をテスラが超えた
【田中】環境への取り組みといえば、8月下旬にテスラの時価総額がトヨタを超え、それから二十日くらいで、全ての自動車メーカー合計の時価総額をテスラ一社が超えました。
これは衝撃的でした。株式市場では、日野自動車含めて日本の自動車メーカーは旧来型の自動車メーカーであり、テスラは自動車メーカーというよりクリーンエネルギーのエコシステムを作っている会社と捉えられています。テスラは、太陽光発電でエネルギーを作り、蓄え、EV車で使うというように一歩踏み込んでおり、「自動車メーカー」という枠を大きく超えているところが注目されています。
【下】テスラは、自分たちで充電設備を配備することにより、顧客にとってハードである車を一番効率的に使える状態を提供していることが強みです。これは日本の自動車メーカーはもちろん、トラック・バスを提供する日野自動車も取り組むべきです。燃料電池トラックを作ったとしても、水素ステーションをどうするかという課題はありますが、民間でできること、行政と一緒に取り組むべきことをより深く考え、一歩一歩前に進めていきます。
「生きるか死ぬか」トヨタ・豊田章男社長のもつ危機感
【田中】下社長がCASEなどの新潮流を積極的に取り入れ、モビリティカンパニーへと変貌を志向されているのは、トヨタへ役員として移籍され、トヨタの変革を目の当たりにしてきた経験があるからなのでしょうか。まずはその経緯を教えていただけますか。
【下】私は日野自動車に技術職で入社し、約30数年間、技術・企画・海外営業と分野は違いましたがずっと日野自動車の中におりました。このままさらにグローバル化を推進していきたいと思っている中で、トヨタへの移籍が決まったのです。それが、トヨタがカンパニー制を始め、猛烈なスピードで改革をはじめた2016年です。
一番ありがたかったのは、豊田章男社長と話をする機会が定期的にあったことで、すごい危機感で「トヨタは変わらなきゃいけない」と語るのです。そういう想いと熱量を目の当たりにし、1年後に日野自動車に戻ってきた時に、自分の仕事をやっていく上で大変身に染みる教えをいただきました。
【田中】豊田社長は日本の自動車産業の中でも早くから「生きるか死ぬか」という高い危機感をお持ちでした。それを下さんも共有されて戻られたのですね。
【下】当時はまだモビリティカンパニーという言葉を使っていませんでしたが、「モビリティカンパニーに変化する」という思いの源泉は当時から会社の中にありました。トヨタグループの中の日野自動車の立場として、思いを共有できたことは大変重要でした。