トヨタが技術的に目指しているものの理解はすごく深まった

【田中】そういう意味では、2018年のCESで豊田社長が自動車会社ではなくてモビリティーカンパニーになるんだと語られ、MONET Technologies(編註:ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社。2018年9月設立)の前身となるような話をされていました。そして自動車業界の新潮流である「CASE」の取り組みは、BtoCの乗用車ではなく、バスやトラックといった商用車から始まっていますので、まさに日本の自動車産業の中で下社長がそのリーダー役を担われていると思います。そこまで見越しての人選だったのでしょうか。

下義生社長と田中道昭教授

【下】それはわかりませんが、仕事をする中でトヨタが技術的に目指しているものの理解はすごく深まりました。同時にそういう技術の出口としてトラックやバスが先行することは、トヨタにいた時から感じており、認識を共有できたことで今に繋がっていると思います。

【田中】以前伺った「変化こそが唯一の永遠である」という下社長の座右の銘は今のお話にも通じるところがあるかと思います。

【下】岡倉天心の『茶の本』にある言葉です。この言葉は、裏を返せば、変化をしないものは必ずいつかは滅びるという捉え方だと思います。だからこそ僕自身、世の中に順応して変化しなければいけないという思いがあります。

ユニクロはベーシックだからこそ常に進化している

【田中】たとえばユニクロ創業者の柳井正さんはベーシックにこだわっています。ベーシックだからこそ実はものすごく変化している。変化してるからこそ、やっぱり常にベーシックでいることができる。あるいは、ベーシックこそ、実は常に進化しているところがありますよね。

【下】おっしゃる通りで、表裏一体の関係だと思います。意識して変化という言葉を使ったのは、特に会社という組織では変化するのが結局は人です。人間はどちらかと言うと保守的になりがちなので、口酸っぱく言い続けた結果少し変化できるぐらいだと思います。ですからチャレンジはずっと続けないといけません。

【田中】DXの企業研究をしていると、成功している会社の共通点はそこに尽きると思います。最近の事例として、アメリカの小売最大手のウォルマートはここ数年でDXに成功しつつあり、評価が高まっています。成功の理由は、CEOが文化の刷新から手をつけたことだと思います。

実は2018年2月に、社名を「ウォルマートストアーズ」から「ウォルマート」に変えています。ストアーズを外したのと同じタイミングでテクノロジー企業になると宣言し、改革を断行した。変化を志向し、企業文化の刷新に目を付けたのが最大の理由だと思います。下社長がCASEを実現していく上でも、変化を社員に訴求することが重要だったのではないでしょうか。