他人に価値を認めてもらえなければお金にならない
【田中】調べたところ、会計で使われる「価額」はValueの翻訳でした。だから会計で言う「価額と価格」は、美術品で言う「価値と価格」と同じなんです。価値を価格に転換させるのが難しいところもまったく同じですね。製造業が機械や車両を買って「製品の価値をつくる」ことまではできても、その製品を高い価格で顧客に売ることはとても難しい。
画家もメーカーの人も、当の本人は言うわけです。「どれだけ苦労してつくったと思っているんだ」と。あるいは「自分のノウハウをつぎ込んで、寝る間も惜しんでつくったのだからこの値段で買え」と。本人にとってはその通りなのですが、でもそれを他人が認めるとは限りません。アウトプットの価値を認めてもらえない限り、そこまでの努力は自己満足になってしまいます。
美大では教えない「価値を価格に変える努力」
【山本】美術教育で言えば、欠けているのは価値が価格に変わるのはどういうことなのかを理解する知性です。絵を描くことは美術大学で教えるけれど、価値が価格に変わらないと社会的な意味をもたないことは、誰も教えていません。
【田中】それはビジネスパーソンでも意外に学んでいないですよ。自分が扱う商品やサービスに対して「なんでこれが売れないんだ」と不満をもち、それを不況のせいにしてしまったりする。自分はそれをすごい価値だと思っているかもしれないけど、同じものをつくっているライバルはたくさんいる。それにあなたは高く売る努力をしていない。高く売るためにはそれに向けた努力をすべきだ。私は実際にビジネスセミナーでそういうことを話しています。アーティストもビジネスパーソンもまったく同じだということですね。