「最後の晩餐」等数々の傑作で知られる天才画家レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画に遠近法を積極的に取り入れている。当時の最新技術を習得するため、ダ・ヴィンチは数学者ルカ・パチョーリのもとを訪ねている。東京画廊代表の山本豊津氏は「ダ・ヴィンチがこだわっていた究極の遠近法を実現するためには、どうしても数学が必要だった」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、山本豊津、田中靖浩『教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

「最後の晩餐」(1495-1498)レオナルド・ダ・ヴィンチ、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院食堂(ミラノ)所蔵
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「最後の晩餐」(1495-1498)レオナルド・ダ・ヴィンチ、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院食堂(ミラノ)所蔵

サイエンスから生まれた「遠近法」「ぼかし」の手法

【田中靖浩】レオナルド・ダ・ヴィンチがルカ・パチョーリから数学を学んだこと、これがのちの作品に強い影響を及ぼしたことは間違いなさそうです。例えば《最後の晩餐》に用いられた遠近法の表現、ぼかしとか。これは当時としては画期的な技術だったそうですね。

【山本豊津】ダ・ヴィンチは遠近法の一つである透視図法を用いました。彼はルネサンスの画家マザッチョの透視図法をより正確なものに再構築しつつ、それに「遠くのものは色が変化し、境界がぼやける」という空気遠近法を組み合わせました。

もともと透視図法は光の存在を明かしたサイエンスが前提となっています。それまでの世界観では、ピラミッドの頂点に神がおり、人間は下々にいるわけです。当然、絵画もこれに影響を受けて神から見た視点によって描かれていました。しかしルネサンス時に、人から見た数学的で工学的な視点が誕生しました。それが「消失点」の創造と、そこから生み出された一点透視、二点透視、三点透視図法です。

技術的なことはさておき、ここで確認しておきたいのは、透視図法の出発点に「私がここから見ている」という人間の主体性が存在することです。消失点の創造と透視図法の発展は「神からの視点」から「人間の視点」への転換を意味します。ダ・ヴィンチは透視図法を使っていますが、パース(パースペクティブ、遠近法のこと)を強く設定して絵画としての個性を考えたのも主体性と関係しているかもしれませんね。