世論調査「次の首相にふさわしい人は」のトップは石破氏

問題が深刻なのは、執行部が「簡略版」の総裁選を行う動機がみえみえなことだ。

安倍氏が石破氏を嫌っていることは誰でも知っている。石破氏は、自身が無役になってからは安倍政権に批判的な言動を繰り返し、「党内唯一の反主流派」と言ってはばからない。その石破氏は、党員党友の支持は高いが国会議員の支持は広がりを欠く。党員投票を行わず「簡略版」で行うというのは、石破氏当選阻止のための小細工といわれても仕方ない。

共同通信が8月29、30の両日に行った世論調査で「次の首相にふさわしい人は」との問いに対し、トップが石破氏で34.3%。2位が菅氏で14.3%。河野太郎氏の13.6%、小泉進次郎氏の13.2%、岸田文雄氏の9.9%と続いている。

しかし、自民党議員たちの動向は世論とかけ離れた展開をみせている。総裁選はまだ告示にも至っていないが、菅氏と、石破氏、岸田氏の3氏による争いとなる構図が固まりつつある。そして、細田派、麻生派、二階派、石原派そして無派閥議員の多くを固めた菅氏が極めて有利な展開。先を争って勝ち馬に乗ろうという状態で、新聞、テレビはすでに「菅首相」を前提にした報道を繰り返している。

世論では圧倒的1位の石破氏を封じ込め、その半分にも満たない菅氏が永田町の論理で浮上する。民意とねじれた展開の陰に総裁選のルールがあるとすれば、新政権の正統性が揺らぐことになりかねない。

「総裁選に投票できるから」で党員になってもらったのに…

姑息ともいえる方針には党内からも異論が出た。石破氏は「党員が選んだという正統性がなければ、強力な政治を進める上でハンディになる」と党員投票の実施を要求。小泉進次郎環境相も「全党員に投票機会があるのがいい」と同調。さらに小泉氏に近い若手議員たちは党員投票を行うように呼びかけ、145人の署名を二階氏に提出した。女性議員、地方組織も、それに続いた。

党執行部は石破氏がかみつくのは織り込み済みだったが、若手や地方まで党員投票を求める声が広がったのは誤算だっただろう。

自民党議員たちは、執行部から党員獲得を求められ、きゅうきゅうとしている。「総裁選に投票できるから」と口説いて党員になってもらう議員が多い。それなのに投票権が与えられなければ、議員たちはウソをついたと責められる。政局論を抜きにして切実な問題なのだ。