12人の弟子それぞれがいきいきと描かれている

それまでの最後の晩餐の絵画の多くでは、裏切り者であるユダを1人だけテーブルの手前に描く構図が一般的でした。しかし、レオナルドはイエスと12人の弟子を横一列に並べる斬新な構図で描き、ユダの手に銀貨の入った袋を握らせることで彼が裏切り者であることを暗示しました。

また、ユダの隣では裏切り者を切りつけようとペテロがナイフを持って描かれるなど、12人の弟子それぞれがいきいきと描かれています。ちなみに、このレオナルドの〈最後の晩餐〉は、彼の作品のなかでは数少ない完成品のひとつです。

「最後の審判」でイエスの左右に羊と山羊を描く理由

キリスト教では、やがて「最後の審判」と呼ばれる世界の終わりが訪れ、そのときには、これまで死んだ人間も含めたあらゆる人が天国に行く者と地獄に行く者に振りわけられるとされています。新約聖書でイエスは、「驚いてはならない。墓のなかにいる者は皆、人の子の声を聞き、善を行った者は復活して命を受けるために、悪を行った者は復活して裁きを受けるために出てくるのだ」と語っています。そして、羊飼いが羊と山羊をわけるように、天国と地獄に人間がわけられるというのです。ここでいう羊は善人の、山羊は悪人の喩えです。

このイエスの言葉から、初期の「最後の審判」を主題とした絵画は、イエスを中央に描き、その左右に羊と山羊を描くだけのシンプルな構図が主流でした。イタリアのラヴェンナにある6世紀初頭に制作されたサンタポリナーレ・ヌオーヴォ聖堂のモザイク画もその一例です。しかし、時代を経るにつれ、天国と地獄にわけられる人間たちも描かれるようになります。洋の東西を問わず、右は善、左は悪とされていたため、天国と地獄も(神から見て)右と左に位置しています。

16世紀にミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の壁一面に描いた〈最後の審判〉では、中央に描かれたイエスの周りに、上部には天国が、下部には地獄が描かれました。さらに、その周囲には審判を待ち受ける人々が390人以上も描かれるという壮大な作品になっています。この傑作はしかし、完成直後から批判にさらされ、裸体の一部が長く加筆で隠されていました。

〈最後の審判(羊と山羊を分かつキリスト)〉6世紀初頭(サンタポリナーレ・ヌオーヴォ聖堂 ラヴェンナ):左の羊は善人のたとえ、中央がイエス、左の山羊は悪人のたとえ。