将来の完全自動運転化に対応するために、テスラ車には「オートパイロット」というハードウエアが搭載されていて、このコンピュータで走行のすべてが管理されている。特徴的なのは、デジタル家電やスマホのように新しいソフトウエアを随時アップデートして、最新の機能を入手できる仕組みになっていることだ。ネット経由でアップグレードしていくという発想は、内燃機関で走る車を一生懸命造ってきた既存の自動車メーカーからは出てこないだろう。車をスマホや電化製品と同列に扱うEV専業メーカーならではのアイデアだ。

イーロン・マスクCEOはなぜ天才なのか

テスラの時価総額がトヨタ超えを果たしたのは、テスラの実力と将来性が評価されたから、だけではない。イーロン・マスクという実業家であり天才エンジニアの存在も大きく影響している。

マスク氏といえば、型破りな言動で世間を賑わせてきた。タイの洞窟に閉じ込められた少年たちを救出するために小型潜水艇の提供を申し出て賞賛された(実際には採用されなかったためにマスクが罵詈雑言を吐いて顰蹙ひんしゅくを買った)かと思えば、エイプリルフールに「テスラが破綻した」とツイートして株価を下落させた。最近では、米大統領選出馬を宣言したラッパーのカニエ・ウェスト氏への支持をツイートして、世間をざわつかせた。

自ら手がける事業についてもしばしば先走った発言をして、希代の天才か、ビッグマウスかと賛否を呼ぶことが多い。たとえば渋滞解消のためにロサンゼルスの地下にトンネルを掘って、マスク氏が「Loop」と名付けた道路網を通すというプロジェクトについても懐疑的な見方が少なくなかったが、デモ用トンネルを開通させてテスラ車をテスト走行する段階まできている。

「有言実行」を印象づけた直近最大のトピックスは、テスラ以前にマスク氏が創業してCEOを務める宇宙開発企業スペースXが、20年5月末に有人宇宙船「クルードラゴン」の国際宇宙ステーション(ISS)への打ち上げに成功したことだ。民間企業によるISSへの有人宇宙船の打ち上げは史上初の快挙。乗り込んだのは米航空宇宙局(NASA)の2人の宇宙飛行士で、ドッキングした国際宇宙ステーション(ISS)に滞在後、無事、地球に帰還した。

今回のスペースXのロケットは乗り込んだ宇宙飛行士から「運転しやすい」と褒められるほどの優れものだったようだが、何よりすごいのは打ち上げに使われたブースター部分が地上の決められた位置に戻ってピタリと着地することだ。ブースターを回収して再利用するなんて、アポロ計画に携わった人間には絶対に思いつかない発想だ。