スペースXのロケット技術がテスラに転用できるという話ではないが、この偉業がイーロン・マスクの名声と信用を大いに高めてテスラの株価に影響したことは想像に難くない。アマゾンのジェフ・ベゾス氏も「ブルーオリジン」という会社を設立して航空宇宙ビジネスに乗り出しているが、ロケットはまだ開発段階で打ち上げサービスの提供は実現していない。マスク氏は自分で事業の目標を定めて、自分で技術的な解決策を編み出し、実現までできる希有な存在なのだ。

EVの独壇場ではない未来もありうる理由

その天才が率いるEVメーカーだからプレミアムがつくわけで、今回のテスラの「トヨタ超え」はご祝儀的な色合いが濃いと思う。時価総額を正当化できるかどうかは、これから何世代にもわたって同じような優れた経営者が後を継ぐかどうかにかかっている。

83年前に創業したトヨタは世代交代を繰り返しながら時代を乗り越え、世界に根を張り、年間1000万台以上の車を生産する世界一の自動車メーカーになった。いくら構造がシンプルなEVとはいえ、テスラが1000万台規模のメーカーになって世界のトップに躍り出るにはまだまだ時間がかかる。マスク氏がいつまでも率いるわけではないし、代替わりしてマスク氏の創業の精神や設計思想が守られるかどうかもわからない。マスク氏を上回るような才能、もしくは経営者が後を継がなければ、時価総額に見合った成長は望めないだろう。

30年後には内燃機関のエンジン車からEV時代に完全移行しているとも言われる。テスラの将来価値が見込まれる理由でもあるが、私はEVに完全移行するとは思っていない。アメリカやドイツ辺りでは1日1000キロぐらい平気で走る人がいるが、航続距離が限られていてチャージに時間がかかるEVは長距離移動には向かない。その点、電気とガソリンの両方を使えるHV車のほうが優れていると個人的には思う。人口密集地はEVとして電気で走って、郊外ではガソリンも併用する。HVなら走りながら充電できるから、航続距離を稼げる。

中国ではEVの購入に補助金が出るが、最近はHVにもインセンティブがつくようになった。EVの独壇場ではない未来だってありうるのだ。

(構成=小川 剛 写真=Getty Images)
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