数年前、別件の店舗取材で「木視率(建築用語で、室内を見渡した時に木が見える割合)が40%を超えると、やすらぎ感が格段に高まる」という話を聞いたこともある。その話がよみがえってきた。

「2階から3階へ行く階段の横にはアートがあります。これは、淀川の河川敷をはじめ国内外で集めたゴミや漂流物などを使って制作をする、淀川テクニックというアーティストの作品です」

店長の柳原里枝さんが明るく説明してくれた。社歴も長い生粋の大阪人で、LINKS UMEDA 2階店では「店のオカン」の役割を担っている。元々は地域の自然環境を考えるきっかけづくりのために制作したものだそうだが、カラフルな飾り付けが彩りを加えている。

写真提供=スターバックス コーヒー ジャパン
淀川のゴミや漂流物で作った「淀川テクニック」のアート(LINKS UMEDA 2階店)

ドリンクを持ってきてくれた女性スタッフも関西出身。着用するブラックエプロンについて話を振ると、「3回目の挑戦で獲得できました」とうれしそうに話す。ブラックエプロンは、年に一度、コーヒーに関する幅広い知識、コーヒー豆の特徴などを問う社内試験を実施して合格した人だけに与えられる資格だ。

「格好つけない」一方、商売人を感じる気質

取材した2店の近くにも、それぞれ別の店舗があったので、短時間、店内を見てみた。共通したのは、必要以上に格好つけない姿勢。ベタな関西風でもない。「店もお客さんも、お互いに歩み寄った印象ですね」と同行の編集者はつぶやいた。後日、2店について聞くと、こんな回答だった。

「まず店舗づくりの観点では、どちらの店舗も店内のアートは、大阪の血を濃く引いたアーティストが手がけています。人懐っこく明るい大阪の方の雰囲気が、手がけたアートの色合いやタッチに表現されて、それが店舗全体のとがりすぎない雰囲気に一役買っているのではないか、と思います」

さらに、関西事情に精通する広報担当者はこう続ける。

「一方、パートナー(従業員)には、いい意味での商売人気質を感じます。当社は一人ひとりが『自ら考え行動する』などのキーワードで、マニュアルのない接客を行いますが、特に大阪のパートナーはその傾向が強い。お客様との自然な交流を楽しむかのようです」

もともと「個人経営の喫茶店」が持っていた、地元の空気感のようなものか。

筆者もかつて、大阪・キタで昔ながらの個人店を利用し、「ごちそうさまでした」と伝えると、「おおきに」という言葉が返ってきて、余韻を味わったこともある。

平成・令和時代のカフェは、昭和時代の喫茶店に比べて、店とお客の距離感に離れた感じを持つが、大阪のスタバには距離感の近さを感じた。