顧客や個人株主の「情」に訴える現経営陣

定食チェーンの「大戸屋ホールディングス」を巡る経営権争いがヤマ場を迎える。創業一族から株式を譲り受けて発行済株式の約19%を保有する筆頭株主になった外食チェーン大手の「コロワイド」が、51%の株式取得を目指して株式公開買い付け(TOB)に乗り出したのだ。

和風レストラン「大戸屋ごはん処」の看板=2019年3月12日、東京都豊島区
写真=時事通信フォト
和風レストラン「大戸屋ごはん処」の看板=2019年3月12日、東京都豊島区

しかも直近の株価に45%も上乗せした3081円に買取価格を設定、7月10日から8月25日までを募集期間とした。大戸屋は新型コロナウイルス蔓延の影響を受けて赤字に転落するなど業績が悪化している。先行きの株価への不安がある中で、上場来高値(2002年の3270円)に近い価格を提示したことで、大戸屋の株式の85%を持つ約2万5000人の個人株主がどう動くかで経営権の帰趨が決まる。

大戸屋の窪田健一社長をはじめ現経営陣はこのTOBに強く反発、7月20日には取締役11人の全会一致で、TOBに反対する意見を決議した。大戸屋側はコロワイドとの経営方針の違いについて、「お客様思考vs自分本位」「町のごはん屋vs工場」「オンリーワンvs平凡」だとし、顧客や個人株主の「情」に訴える戦略をとっている。いわゆる「敵対的TOB」に発展したのだ。

株主総会の結果が、コロワイド側の戦略を決めたのではないか

実は今回のTOBには前哨戦があった。6月25日に行われた株主総会に、コロワイド側から取締役12人の選任を求める「株主提案」が出されたのだ。

会社側は窪田社長ら11人を選任する議案を出したが、これに対してコロワイド側は、取締役候補者12人の選任を求めた。もっとも、12人のうち5人は窪田社長ら現経営陣。それに加えて、コロワイド専務の蔵人賢樹氏ら7人を候補にした。現経営陣が折れるならば、次期体制でも窪田氏らの取締役としての身分は保証する、というメッセージである。

そのほか、株主提案で目を引いたのは、創業者の長男で保有株式をコロワイドに売却した三森智仁氏ら創業家の人物が名を連ねていたことだ。

総会での議決の結果は、会社側提案が全体の61%前後を獲得して可決された。一方の株主提案は14~15%に留まった。不思議なことにコロワイドは19%の株式を保有して、総会にも出席していたが、会社側によると、議案について「賛成の意思表示を行っておらず」財務局に提出された議決数には合算されなかった。

コロワイド側の真意は分からないが、現経営陣が買収交渉に応じず最後まで反対を貫いていたことで、株主総会の時点で、呉越同舟の取締役会を作る戦略を放棄、TOBで過半数を握る戦略に切り替えていたと見られる。結果的に個人株主の多くが現経営陣側に流れたことも鮮明になった。