香港の感染情報を知らないはずはない

しかし乗客の安全を守らなければならない立場のプリンセス・クルーズ社にとっては、ことはこれですまされないはずなのだ。親会社のカーニバル社は2018年の売り上げが2兆円の企業である。世界中でクルーズ船を就航させている運航会社として、世界各国の危険情報には何よりも敏感な企業でなければならないはずだろう。各地の天候にはじまり政治状勢、テロ情報、今回のような感染症情報、その他諸々。これらの情報をつかんでいなければ乗客の安全は確保できないはずであり、クルーズ運航は不可能であると思う。

航行中の1月25日に香港観光を終えた後、翌26日に香港ディズニーランドが封鎖になった。この情報は、下船後のネット検索によって知ったものだ。この情報につけ加えるなら、その翌日27日には香港教育省が「全学校一斉休校」の通達を出した。そう香港在住の日本人ジャーナリストが書いている。

これらのことをカーニバル社、プリンセス・クルーズ社が知らないはずはないのではないか。さらにつけ加えるなら、やはりカーニバル社のイタリア子会社、コスタ・クルーズ社保有のコスタ・スメラルダ号は、1月31日乗客に新型コロナ感染の疑いが出て、ローマに近いチビタベッキア港に停泊したまま乗客は下船ができなかった。翌日陰性と判明して下船は可能になったという。香港政府からの通知とともに情報を重ね合わせて、なんらかの対策を至急とるべきだったのだ。だが2月5日の隔離までそうした措置はとられなかった。

他の所有船でも感染騒ぎを起こしている

その後、プリンセス・クルーズ社保有のクルーズ船は、世界各地でダイヤモンド・プリンセス号と同じような問題を引き起こしている。カリフォルニア沖でのグランド・プリンセス号での感染騒ぎは、ダイヤモンド・プリンセス号の事件のすぐあとに起き、日本でも広く報道された。またオーストラリア・シドニーに3月19日入港した、プリンセス・クルーズ社が所有・運航するサファイア・プリンセス号でも新型コロナウイルス感染者が出ている。

もうこうなると、この会社はいったいどうなっているのか、わからなくなってくるのだ。杜撰というなら杜撰、いや杜撰以上のものだ。しかしその裏には、このような杜撰から逃れるためにかぎりない計算もあるのではないだろうか。

もう少し小さな場所を見てみよう。以下は、ビデオ・オン・デマンドとして私たちがいた部屋のモニターにアップされていたプリンセス・クルーズ社社長ジャン・シュワルツの挨拶である。隔離中、デジタルカメラで動画撮影したものだ。画面に日本語字幕がついていたので、それを全文書き起こしてみる。

まず隔離がはじまった当初のころのビデオ挨拶。