※本稿は、小柳剛『パンデミック客船 「ダイヤモンド・プリンセス号」からの生還』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
レストランの入り口では必ず入念に手を洗わなければならない
2月4日早朝6時ごろ、私たちの部屋に2人の検査官が現れた。
体温を測り、前もって記入しておいた私たちの住所、連絡先、メールアドレスの所定用紙を回収して行った。所定の用紙は昨日配られたものだ。断っておくが、この時点での検疫検査はPCR検査ではない。
いつものように8時過ぎに14階のビュッフェで朝食をとる。部屋での隔離はまだなされていなかった。
どのクルーズ船もそうなのだが、ビュッフェ、レストランの入り口には手洗いコーナーが設けてあり、入るときは必ずそこで入念に手を洗わなければならない。この船もそれは同様であり、ウエイトレスが必ず手洗いコーナーに立っており、入ってくる乗客に手を洗えと指示をする、そのことは出航当初から徹底されていた。
検疫下におかれると、このような注意はより厳しくなり、前の人が使ったテーブルに次の人が座るときには、ウエイター、ウエイトレスが椅子、テーブルを入念に拭くことをはじめた。しかし残念ながら、よく絞らず濡れたままの紙のナプキンで拭くからたまったものではない。椅子もテーブルも濡れたまま、ベトベト、すぐには座れない。私はナイフやフォークを包んだ布のナプキンで再度拭き直すのだった。
ビュッフェはいつも満杯で空いているテーブルをさがすのに苦労するのだが、その日は運よく窓際のテーブルに座ることができた。食事をはじめてまもなく、ふと下を見ると、取材のテレビクルーだろう、彼らが乗った小船が何艘かあり、大声で何かを叫びながら、カメラを操作するのが見えた。
上空を数機のヘリが飛び交い、ただならぬ雰囲気に包まれはじめた。しかし乗客のほうは「いったいなんの騒ぎか」と、逆にスマホを取り出し写真を撮ったり、手を振ったりしだす始末。繰り返すが乗客側は状況がつかめていないのだ。Wi-Fiがつながりはじめた。