「これから原則14日間の隔離を行う。全員室内にとどまれ」

2月5日、事態がついに動いた。

早朝に船内放送があり、いつものように訛りの強い船長の英語でのメッセージ、そしてそのあとに男性が日本語に通訳する。この詳しい時刻は覚えていないが、早朝には、NHKのF記者にその内容を伝えていた。

6:38 早朝のショートメール送信。

私「今日最初の船内放送です。乗客は公共の場所に出るな、全員客室内で待機してくれ、との指示。この放送は全室に聞こえる放送。重要でない放送は公共の場所だけに聞こえる放送です。緊張度が突然増したよう」

F記者「ありがとうございます。客室内で待機する指示ははじめてですか?」

私「はじめてです。食事はどうするのだろう? すぐそんな疑問が出てきます」

このメールのやり取りのあと、F記者による二度目の電話インタビューを受けた。話したことは、もしこれから隔離がなされるなら、まず心配なことは薬が不足することだった。

小柳さんが撮影した船内の様子。フロント前はやや人が集まっていた。
撮影=小柳 剛
小柳さんが撮影した船内の様子。フロント前はやや人が集まっていた。

この後ふたたび八時十分に船内放送。決定的なことが知らされる。

〈昨日採取した検体から十名の感染者が判明したので乗客は全員室内にとどまってほしい。これから原則十四日間の隔離を行う。船はこれから生活用水確保のため外洋に出る〉

内容はだれもが間違えようもないほど明確に伝えられたのだった。

もっともエネルギーを注いだことは薬を手に入れることだった

船は海水をろ過して生活用水をつくり、生活雑排水もろ過して外洋に捨てるという特別のシステムを備えていた。生活用水確保とは、そのために外洋に出ることを指す。

このような作業は航海中続けられているようなのだが、今回のように停留が長くなるとたびたび定期的に房総半島沖に出て行かなければならなかった。しかしまずは発生した感染者の搬出が優先で、放送後もしばらく船は動く気配はなかった。

8時30分にふたたび船内放送。

〈食事はルームサービスを通じて全室に配る。1300、すべての部屋に配る〉

この放送により、隔離はいよいよ現実のものと実感された。

今までのどっちつかずの状態から、あきらかにフェーズは変わった。長期戦がはじまるのだ。あとから考えると、拘束された生活は三段階に分けられると思った。これからくる隔離は第二段階。この期間でもっともエネルギーを注いだことは、いうまでもなく薬を手に入れることだった。