「何を大切にしているか」が非常時に浮き彫りになる

コロナ禍は世界各国で、それまで強く意識されずにきた社会の実態や本質を炙り出している。フランスのDV対策を題材に上記で述べてきたことも、その一つと言えるだろう。各政府が問題に着手する順番や手法を追っていくと、それぞれの社会で大切にされているもの、後回しにされてしまっているものが、浮かび上がって見えてくる。

平常時に積極的に取り組んできた問題には、非常時にも配慮が行き渡る。逆に言えば、平常時に見て見ぬ振りをしてきた案件は、非常時にはさらに黙殺されてしまう――それは個人レベルでも国家レベルでも同じことで、国や文化が違っても、現象自体に大差はない。DV問題では迅速な反応を見せたフランスだったが、自営業者支援などでは対策の実効性に疑問が持たれ、国民の不信感が蓄積している面もある。

日本でも、政府が全国的な自粛要請に言及し始めた2月中旬から、新型コロナウイルスを巡る支援策が多岐にわたって実現されている。DV問題は内閣府男女共同参画局が主導し、4月3日付の文書で、自粛要請下でのDV被害者保護・支援の継続を自治体に依頼した。続く4月20日には新たな相談窓口「DV相談+(プラス)」(0120-279-889)を運用開始、同29日には受付を24時間化に強化した。しかし事業者向けの支援策が2月中旬から整備・発表されていた事実を前にすると(特別貸付制度や雇用調整助成金の特例措置は2月14日、職場における感染拡大防止要請は2月21日)、日本政府がDV問題へ高い感度を示しているとは、残念ながら言い難い。多くの子供たちが家庭にいるようになった3月2日の全国一斉休校開始からも、1カ月以上が経過している。

画像=「DV相談+」ウェブサイト
新型コロナウイルスを受けて新たに設置された相談窓口「DV相談+

衆議院に占める女性の数は「10.1%」

現在、日本の内閣閣僚20人のうち女性大臣は3人。国会議員に占める女性の割合は衆議院10.1%(47人)、参議院20.7%(50人)である(出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書(概要版)平成30年版」平成30年2月現在)。日本でも選挙の際に政党に男女均等の候補者擁立を求める法律「政治分野における男女共同参画推進法」があるが(2018年5月施行)、「政治は男性のもの」という固定観念やそれに基づく旧来の風習は根強く残っている。女性政治家が生まれにくい・活動しにくい状況は続いており、その元凶の社会通念や環境をさらに変えていく必要性が論じられている。

国民を支え、社会を維持するために、政治は何をすべきなのか。その優先順位はどうあるべきで、誰がどう、決めるのか。

コロナウイルスが浮き彫りにした現実を前に、世界各国はそれぞれ、同種の問いに直面している。これまでの優先順位をよしとするのか、悪しき慣習として改善すべく動くのか。その問いに一人でも多くの国民が意見を持ち、声を上げ、今後に反映させていけるのか。予期せぬ疫病禍がもたらした分岐点に、多くの国が今、立っている。

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