承認を急いだ結果、大惨事を起こした「イレッサ」

産経社説は続けて主張する。

「治療薬の候補は他にもある。日本の製薬会社が開発した抗インフルエンザ薬『アビガン』、ノーベル賞を受賞した大村智北里大特別栄誉教授が開発に貢献した抗寄生虫薬『イベルメクチン』、ぜんそくの治療薬『オルベスコ』などだ。医療の選択肢を拡大することは重要だ」
「米国の速度をみならうべきだ。安倍晋三首相がアビガンについて、5月中に新型ウイルスによる感染症治療薬としての薬事承認を目指していると表明した。臨床試験を迅速に進めてほしい」

候補が複数あって選択肢が広がることには沙鴎一歩も賛成である。しかし、「米国の速度をみならえ」との主張には反対だ。承認のスピードを上げた結果、惨事を起こした大きな薬害が起こした事例が日本にはあるからだ。

2002年7月、世界に先駆けて日本で承認された肺がん治療薬「イレッサ(一般名・ゲフィチニブ)」は劇的な効果がある一方で、承認後わずか半年でおよそ500人もの患者に間質性肺炎などを発症させ、うち約160人が亡くなった。イレッサの知識のない医師が処方したことが、多くの死者を出した原因だった。イレッサはその後、安全対策がとられ、患者の症状に合わせた的確な投与が行われている。薬の承認は早ければいいというわけにはいかないのである。

「現時点では全ての患者に効く特効薬とは言えない」

産経社説は後半で、「同時に、薬にはさまざまな副作用がある。効果と安全性に一定の留保がつくことは肝に銘じておくべきだ。使用に当たっては患者側への説明に努めてほしい」と書いている。副作用についてまったく触れていないわけではないが、読者の期待を煽るような書き方には問題がある。

毎日新聞の社説(5月9日付)は「新型コロナの治療薬 適切な使用で命守りたい」との見出しを付け、レムデシビルの問題点を整理している。

「まず、現時点では全ての患者に効く特効薬とは言えない」
「重症者約1000人を対象にした臨床試験では、回復までの時間を4日短縮できた。適切に使うことで人工呼吸器や集中治療室(ICU)に余裕が生まれ、医療崩壊防止につながると期待される」
「しかし、死亡率を下げる明確な効果は確認できなかった。米国製のため、日本でいつから使えるかや、必要な量が確保できるかも見通せない」

確かに「特効薬」ではないのだ。医療の崩壊を防げるメリットはあるが、これも確かなことではない。それにアメリカ製品ゆえの問題点も多い。