腎機能や肝機能を低下させるリスクがある
4月7日、エボラ出血熱の点滴薬「レムデシビル」(商品名・ベクルリー)が新型コロナウイルス感染症の治療薬として日本で承認された。国内初の抗新型コロナウイルス薬となるが、厚労省は緊急時に審査する医薬品医療機器法の特例承認制度に沿って手続きを進め、その承認は申請後わずか3日と異例のスピードだった。通常、医薬品の承認は早くても申請から1年はかかる。
レムデシビルはアメリカの製薬会社ギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱の治療薬として開発した医薬品だ。体内で新型コロナウイルスの増殖を抑える働きがあるとみられ、アメリカの臨床試験では患者の回復までの時間を3割ほど短縮する効果が確認された。ただ、日本の専門家からは「過度の期待はできない」との声もあがっている。
この薬をギリアド・サイエンシズ社は日本に無償で供給するというが、日本国内の医療機関に届く時期は、はっきりしていない。厚労省は重症の患者に優先的に投与するというが、問題は副作用である。腎機能や肝機能を低下させるリスクがあるのだ。
重症者向けのレムデシビル、軽症者向けのアビガン
同じように新型コロナウイルスの増殖を抑える働きが期待されているのが、新型インフルエンザ治療薬の「アビガン」(一般名・ファビピラビル)である。
アビガンは富士フイルムの子会社富山化学が開発し、新型インフルエンザのため一定量が備蓄されている。レムデシビルと同様に既存の薬だが、用途が異なるために再承認が必要となる。既存薬は体内での働きが分かっているので、申請前の開発時間は短縮できる。
点滴するレムデシビルに比べ、アビガンは経口薬(飲み薬)で、医師や患者にとって使いやすい。アフリカではレムデシビルのようにエボラ出血熱の治療薬として使われ、それなりの効果が出ている。
安倍晋三首相が3月28日の記者会見で「これまでに患者の同意を得た臨床研究で数十例の投与が行われ、症状の改善に効果があった。今後は希望する国々と協力しながら臨床研究を拡大する」と発言して以来、注目されている。政府は重症者向けのレムデシビルに対し、アビガンは軽症者向けの治療薬として近く承認する方針だ。
安倍首相は4月7日の記者会見でもアビガンについて触れ、現在の備蓄量の3倍に相当する200万人分を準備することを明らかにしている。
しかしアビガンにも、深刻な副作用がある。胎児に奇形を起こす催奇形性だ。開発中のマウスに対する実験投与で奇形のマウスが生まれ、アフリカでは服用した男性の精液からアビガンの成分が検出されている。このため妊婦や子供をつくる予定のあるカップルには使用できない。