心の中に神さまがいるなら、なぜ第一次世界大戦は起きたのか

【池上】仏教的にいうと、縁、あるいは縁起ですね。

【佐藤】ええ。哲学者のレヴィナス(1906~95)の言葉で言うと、「外部」になります。一八世紀末から一九世紀初めの有名な自由主義神学者シュライエルマッハーは、神のいる場所を天から心の中に変えてしまいました。神は心の中にいることになったので、神の場所における問題がなくなり、自然科学が発展しても問題なくなったわけです。それにより心イコール神さまに近づきました。

ところが、いったん解決したと思った心の中の神の問題は、実は解決しませんでした。1914年に第一次世界大戦が勃発したためです。人間の心の中に神さまが宿っているなら、どうしてあのような大量殺人や大量破壊が起きたのか。同時に、科学技術の発展によって大量破壊や大量殺戮さつりくが起きるなら、合理性というものはどこまで信頼できるのかという問題が生じたからです。神学においては、心の位置がとても低くなりました。

AIが発達する時代に「心」をどう位置づけるか

【佐藤】それで現代神学をつくり出したカール・バルトが再び、神は上(天)にいる、と言い出します。ただしこれは、形而上的な「上」ではありません。「外部」ということです。

この心の問題というものも、厄介です。それだから、脳を研究している人のあいだに「心脳問題」──脳との関係で心をどう位置づけるか──が生まれたりします。私の接触している範囲では、心などというものは一種の幻影だと言う人のほうが多いように感じます。AIと関連しても、心の問題をどう見るかは重要です。

関係が一義的であるネットワークから心のような表象が出てくるのか。あるいは、ある種の心のあるものが、目には見えないけれど確実に存在するというリアルなものとしてあるのか。これもすべて立場設定の問題になってしまうでしょうが、大切な問題だと思います。

重鎮の政治家は占いをすごく怖がる

【佐藤】ところで池上さんは、占いを信じますか?

【池上】全く信じていません。

【佐藤】占いをしたことはありませんか?

【池上】「やってあげます」と言われたことはあります。言ってくれた人の気持ちを傷つけてはいけないので、「ではお願いします」と言って占いをしてもらい、「へぇ~」と感心してみせたことはありますけれど。

【佐藤】私は政治家を見てきましたが、閣僚以上の政治家になると、占いをすごく怖がります。自殺した元農林水産大臣の松岡利勝さんは、占いだけでなくギャンブルも怖れていました。以前、私は松岡さんとモスクワのカジノに行ったことがあります。彼は「選挙で毎回博打をしているから、こんなところで勝ったら運を使い果たすし、負けたら悪運がつくかもしれない」と言って全然賭けません。「先生、では占いはされないのですか」と尋ねると、「とんでもない、恐ろしい」と。鈴木宗男さんも占いは絶対しませんし、週刊誌の占いのページも飛ばして読んでいました。