「給料が増えるにつれて、より良い仕事の為に何をすべきかを考えるようになれました。今ではお客さんの『ありがとう』のために働いていると実感できます。裏方ですけど、自分のした仕事が直接お客様にも見えるという意識を、みんなが感じて、仕事してもらえるよう頑張っていきたい。口で言う事は簡単で、軽くなってしまうので、むしろ感じてほしい。あとは、ずっとここで働きたいと想っています。何よりも、ほのぼの屋をもっと良くしていきたいです。もしかすると、そういう気持ちを持てたのが、ここに入った頃と今とで、一番違う部分かもしれませんね」

わが子は「社会の役に立つような人になってくれれば」

そして六田はポツリポツリと、問わず語りに、自分の弟が白血病だったという身の上話を始めた。長らく大学病院で治療をしており、両親は、六田が多感な時期に、弟につきっきりにならざるを得ない状態だった。

姫路まさのり『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』(新潮社)

「そりゃあ親も、兄である僕の事を絶対、気にかけてくれていたとは思うけど、弟につきっきりでした……正直、もっと見てほしかったかな。でも、僕も親になって、今は両親の気持ちがわかるようになってきた」

両親との関係が良好と言えない期間もあった。しかし、子どもを授かり、家庭を支える親という立場になれたからこそ辿りついたのが、自分の親への感謝の境地だった。

最後に、愛する我が子の将来について尋ねると、「う~ん」と唸り声をあげて熟考した。そして前を向き直して、こう発した。

「うん! 社会の役に立つような人になってくれれば、それでいいです」

六田のその眼は、自身が歩んできた道のりから続く、我が子の将来を真っ直ぐに見晴るかしていた。

子どもの“未熟な日々”は、成長と共にあっという間に過ぎ去って行く。そして気付けば、あの未熟な日々こそが何よりも輝いていたように感じる瞬間が、いつしか訪れる。

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